18. 人間探し
新しい学校生活が始まって数日が経過した頃、エマは膝の上でクローキャットを撫でながらルミナス・カレッジのコモンルームで寛いでいた。
「エマ、そのクローキャットすごい懐いてるけど、魔法をかけてないんだろ?」
彼の名はフィン・ハーパー。フレンドリーで、誰とでもすぐに打ち解ける明るい性格だ。
「うん、魔法は好きだし、懐いてくれるのは嬉しいけど、魔法で無理やり仲良くなるのはちょっと違う気がして……」
「お前面白いやつだな! でも気をつけろよ?」
「ありがとう、でも大丈夫だと思う」
「ちがうちがう」
「え? どういうこと?」
フィンはいつもの軽い笑みを浮かべながら、周りに聞こえないように声を潜めた。
「最近、学内に人間がいることに反発してるやつらが、人間を探して他の学生を襲ってるって噂だぜ? 魔法を使わずに何かしてたら、人間って疑われるかもしれないからな。まあ、エマなら襲われても大丈夫だろうけど!」
「気をつけろよ〜」と言ってフィンはその場を去っていった。エマは彼の言葉に不安を覚えながらも、クローキャットを撫でる手を止めなかった。
エマは、クローキャットを連れて自分の部屋に戻り、授業の予習をすることにした。クローキャットがベッドの上で丸くなり、犬型の魔法精霊ヴィラは、本を読むエマの周りをふわふわと駆け回っている。
そこに突然ルイが現れた。
「学校生活は順調か?」
「ルイ! うん、頑張ってるよ! あ、紹介するね。ベッドの上にいるのがクローキャットのクロちゃん!」
「……ペットを飼うのは良いが、ちゃんと魔法はかけたのか?」
「かけてないけど大丈夫みたい」
エマがそう答えると、ルイのポケットの中が輝き出し、中から猫型の魔法精霊が出てきた。ルイの精霊は、エマの精霊と一緒になってエマの周りを駆け回りだした。
「ルイの魔法精霊、猫ちゃんみたい! かわいい〜! あ、それよりルイ! 私ももう12歳のレディなんだから、部屋に来る時はノックしてよね!」
「レディ? そんなことより話がある」
ルイの表情が急に真剣になる。
「最近エマのことが学内で噂になっているようだ。『学内に人間がいる』と。特に心配してないが、もし何かあればヴィラちゃんを使ってすぐに俺を呼べ」
「そうみたいだね……気をつけるよ。ありがとう」
その時、廊下の方から「エマー! いるのー? 入るわよ〜」と言って、同級生のソフィアが現れた。
「あら? お邪魔だったかしら? またあとでくるわ」
ソフィアはちらりとルイを見たが、何も言わずに立ち去った。その瞬間、エマの胸に微かな緊張が走る。
「ソフィアに聞かれたかな……?」
「友達なら聞かれても大丈夫だろう。ただ、油断するな」
エマは頷きながら、胸の内に言葉にならない不安を抱えていた。