176. 戦況
ゴォォォン!!
雷鳴のような轟音とともに、ニヴェラの精霊の放った槍が少女に向かって一直線に飛んでいく。
しかし——
「甘い」
少女の唇がわずかに歪む。
その瞬間、彼女の体が闇に溶けるように消えた。
槍が突き進んだ先には、何もない。
「……消えた!?」
ニヴェラが驚愕する間もなく、影が背後に集まり、少女が音もなく現れた。
「珍しい精霊ね」
ニヴェラのすぐ後ろ。気づいた時には、もう遅い。
「——テンブラ・ファルシス!」
少女の掌から発せられた黒い波動が、ニヴェラの腹部に直撃する。
ドォン!!
「ぐっ……!」
ニヴェラの体が大きく弾かれ、地面を転がる。
「ニヴェラ!!」
ルイが駆け寄ろうとするが、少女が再び影の中に消え、次の攻撃の準備をしていた。
——そのとき。
「エマ、だめだ、下がれ!」
ルイの制止を振り切るように、エマはすでに杖を手にしていた。
(今なら、やれる……!)
少女がニヴェラを撃破し、次の攻撃に移ろうとしたまさにその一瞬の隙を、エマは見逃さなかった。
「——ルーメン・サンクティス!」
エマの杖から放たれたのは、澄み渡る純白の光。
光が少女の体に直撃すると、彼女の体が激しく震えた。
「……ぐっ!? な、何……これは……!」
少女の闇の魔力が、光に焼かれるように揺らぐ。
「……絶対に負けない!」
エマの叫びとともに、光がさらに強く輝く。
少女の黒いマントが焼け焦げ、影の魔力が次第に薄れていく。
「この、私が……!」
少女は苦悶の表情を浮かべながら、エマを睨みつけた。
戦況は、一気に変わりつつあった——。