173. 遺跡の奥
遺跡の奥へと足を踏み入れると、霧がさらに濃くなり、視界が次第に奪われていった。
風は止み、静寂が支配する。耳を澄ませば、自分たちの足音だけが響いていた。まるで時間そのものが、この場所では止まっているかのようだった。
エマは肩をすくめながら、ルイの後ろを慎重に歩く。
「……なんだか、息苦しいね」
呟くように言うと、ニヴェラが小さく頷く。
「時間の歪みが影響しているのかもな」
ルイは警戒を滲ませながら前方を見つめた。
「危険だが……遺跡の最奥まで進んでみよう」
その瞬間、遺跡の奥から不気味な音が響いた。
ゴゴゴ……。
地鳴りのような振動が足元に伝わり、霧の向こうにぼんやりとした影が浮かび上がる。
「何か来る……!」
エマが反射的に身構えると、ルイが冷静に杖を構えた。
「どうやら歓迎されていないようだな」
ゆっくりと霧の中から現れたのは、巨大な影。石のような体を持ち、まるで遺跡そのものが形を成したかのような巨人だった。
「あれは……!」
ニヴェラが低く呟く。
その姿は威圧的だった。ひび割れた石の体に刻まれた無数の古代文字。目の部分には青白い光が宿り、不気味に揺らめいている。
「……遺跡の守護者、か」
ルイが抑えた声で呟く。
ゴゴゴゴ……!
守護者が一歩踏み出すたび、大地が揺れ、重圧が周囲の空気を歪める。
エマは思わず後ずさった。
「おいおい、こんなのと戦うのか?」
ニヴェラが苦笑まじりに言うと、ルイは冷静に答える。
「部外者は排除するというわけか」
その言葉を証明するように、守護者がゆっくりと手を上げた。ひび割れた掌に、淡く輝く魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間——。
「来るぞ!」
ルイの声が響いた。
守護者が放った魔力の奔流が、一気に彼らを襲う。
轟音とともに大気が震えた。だが、その瞬間にはすでにルイの杖が動いていた。
彼の前に展開されたバリアが、魔力の奔流を完璧に防ぎきる。
エマは目を見開いた。
「す、すごい……!」
ルイのバリアは微動だにせず、まるで時間そのものを凍らせたかのような静けさをまとっていた。
だが——。
守護者は攻撃を止めない。
次々と魔力を放ち、そのたびに空気が重くなる。
エマは息を呑んだ。
果たして、この戦いを切り抜けることができるのか——。