172. 遺跡
ゴンちゃんの背に乗り、ルイ、エマ、ニヴェラ、クロは時の古代魔法具を目指し旅を続けていた。
「時の古代魔法具って、どんなところにあるの?」
風を切る中、エマがルイに尋ねる。
「それは、クロノス・アビスと呼ばれる場所だ」
ルイの声が低く響く。
「現在、過去、未来の狭間。魔法界でも最も危険な異空間だ」
「それって……」
エマはその言葉に震えるように問い返す。
「クロノス・アビスは、時間そのものが崩れた場所。地面は不安定で、巨大な浮遊する石の島々が点在している。島から落ちると、時間の流れに飲み込まれ、どの時代に行き着くか分からない。戻れたとしても、元の時間には戻れない可能性もある」
ルイの顔には真剣な表情が浮かぶ。
「……」
エマは思わず息をのむ。
「だから、目的地の近くでエマには待っていてもらったほうがいいかもしれない」
「でも……!」
「仮にエマが違う時間に飛ばされたら、さすがに俺も連れ戻せるかどうかわからない」
「……そうだよね」
(私がもっと強ければ……)
悔しさが胸を締め付ける。
しばらくして、空の色がゆっくりと赤みを帯びてきた。
「そろそろ日が沈むな。近くの街で一度休憩しよう」
「賛成だ」
ニヴェラが頷き、エマも同意する。
こうして、一行は休憩をはさみながら、数日間の旅を続けていった――。
旅を続け、いくつもの街を越えた後、彼らはやがて薄暗い霧に包まれた広大な遺跡へとたどり着いた。
まるで時間そのものが凍りついたかのような静寂が支配している。木々は不自然にねじれ、何かの力に引き裂かれたかのように歪んでいた。
ゴンちゃんの背から飛び降りたエマは、足元の土を踏みしめる。湿った地面は霧のような冷たさを帯びていた。
「ここは……」
エマが呟くと、ルイが静かに言った。
「この遺跡のどこかに、クロノス・アビスへと通じる門があるとされている」
「本当にそんなものが……?」
ニヴェラが辺りを見渡しながら尋ねると、ルイはわずかに目を細めた。
「伝承ではな。だが、確かめるしかない」
「なら、さっそく探してみよう」
ニヴェラが言い、エマとルイも静かに頷いた。