171. 移動
空はすっかり青く澄み渡り、頭上には太陽が高く昇っていた。雲の上の国オルケードは静まり返り、風がわずかに流れる音だけが響いている。
ルイとニヴェラは、崩れかけた雲の道の上に立ち、次の目的地について話し合っていた。
「ニヴェラ、時の古代魔法具を必ず見つけられる保証はない。それでも危険な旅になる」
ルイは腕を組み、冷静に言う。
「わかってるさ」
ニヴェラは短く答えたが、その表情には迷いがなかった。
「ならいいが……俺も目的地にたどり着くまでの間に、あまり魔力を消費したくない。一度、近くの街へ降りてから行き方を考えよう」
「わかった――」
ニヴェラがそう答えた、その瞬間だった。
突然、空が影に覆われた。巨大な影がゆっくりとオルケードの空を横切り、雲の切れ間から姿を現す。
「……ドラゴン?」
ニヴェラが目を細め、すぐに戦闘態勢を取る。
「こんなときに……!」
ニヴェラは低くつぶやき、風の魔力を指先に集中させた。しかし――。
「ニヴェラ、待て!」
ルイの鋭い声が響く。
「早く仕留めるべきだ!」
ニヴェラが反論するが、次の瞬間、ドラゴンがゆっくりと降下し、まっすぐエマの方へと近寄っていった。
「エマ!」
ニヴェラは思わず叫ぶ。だが、エマは逃げるどころか、悠々と手を伸ばし、ドラゴンの大きな頭を撫でていた。
「!?」
ニヴェラの目が驚愕に見開かれる。
「ニヴェラ、ごめん、この子は私の友達なの!」
エマは無邪気に笑いながら言う。
「嘘だろ……!?」
「ゴンちゃんって言うの! ニヴェラの風魔法ほどじゃないけど、かなりのスピードで移動できるから、一応呼んでおいたの!」
ニヴェラはしばらく言葉を失ったまま、エマとドラゴンを交互に見つめていた。
「エマ、ありがとう。助かる」
ルイがエマに向かって微笑む。
「エマはドラゴンも手懐けられるのか?」
ニヴェラがルイに尋ねると、ルイは肩をすくめた。
「ああ。なかなか珍しい才能だろ?」
「……」
ニヴェラは納得しきれない表情を浮かべつつも、最後には肩を落とし、深く息を吐いた。
「まあ、このままドラゴンに乗って移動を開始しよう」
ルイがそう提案すると、ニヴェラも観念したように頷く。
「わかった」
こうして、一行は時の古代魔法具を目指し、ゴンちゃんの背に乗り、空へと舞い上がった。