170. 時
瓦礫と化したオルケードの街を、ルイ、エマ、ニヴェラ、クロは慎重に歩いていた。
かつて整然と並んでいたはずの道は、いまや崩れた建物の残骸に埋もれ、足場の悪い廃墟と化している。
エマは足元を確認しながら進んでいたが、突然、足場が崩れた。
「――きゃっ!」
バランスを崩し、エマの体が雲の縁へと傾く。
「エマ!」
ルイがすぐさま腕を伸ばし、彼女の手首を掴んだ。
ルイは冷静にエマを引き上げると、少しだけ眉をひそめた。
「気をつけろ。このあたりはもう、まともな地盤じゃない」
「う、うん……ありがとう、ルイ」
エマはまだ少し息を乱しながらも、安堵の表情を浮かべた。
その間にも、ニヴェラは険しい表情のまま、辺りを見渡していた。
「誰もいないようだな」
ルイが静かに呟く。
「闇の魔法使いに襲われて、皆逃げたのかな?」
エマがそう言うと、ニヴェラは唇を噛みしめた。
「……国の者たちはどこかに避難しているに違いない。簡単に殺られるような民ではない」
エマは、崩壊した建物を見渡しながら、ふと思い至った。
「ルイ……魔法で直せないの?」
ルイは一瞬考え込んだあと、ゆっくりと首を振る。
「これだけ崩壊していては、さすがに難しい。修復魔法にも限界がある」
ニヴェラがルイを見据え、鋭く尋ねた。
「……時の古代魔法具があれば、直せるのか?」
ルイはその問いに、すぐには答えなかった。
微かに視線を逸らし、答えを探るように沈黙する。
「それは……」
「直せるんだな?」
ニヴェラの声には、強い確信があった。
ルイはわずかに眉を寄せたが、やがて短く頷く。
「ああ」
その答えを聞いた途端、ニヴェラの表情が決まったものに変わった。
「ならば、時の古代魔法具を目指そう」
ニヴェラの声には、迷いがなかった。
だが、ルイはすぐに応じなかった。
「……」
ルイは小さく息をつき、思案するように視線を伏せる。
「ルイ?」
エマが戸惑ったように問いかける。
ルイは目を閉じ、静かに言った。
「時の古代魔法具と魂の古代魔法具は、特別危険なものだ。できれば最後の目的地にしたかった」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃない!」
ニヴェラの声が、冷たくも強い焦燥を帯びる。
「それに……俺たちはもうすぐ、空中都市エテルに行かなければならない。反乱軍からじきに連絡がくる」
「……!」
ニヴェラは歯を食いしばった。
しかし、ニヴェラはすぐにルイの前に立ち、まっすぐに見つめる。
「頼む、ルイ……時の古代魔法具を探しに行こう。オルケードを……私の国を、元に戻したいんだ」
ルイは、ニヴェラの揺るぎない瞳を見つめ返した。
その後、ルイは長く息を吐き、ゆっくりと頷いた。
「……わかった」
ニヴェラの表情に、一瞬だけ安堵が浮かぶ。
しかし、ルイは最後にきっぱりと言った。
「だが、途中で反乱軍に呼ばれたら、悪いが時の古代魔法具は後回しだ。いいな?」
ニヴェラは一瞬口を開きかけたが、ルイの真剣な眼差しを見て、ゆっくりと頷いた。
こうして、彼らは新たな目的地を定めた。
時の古代魔法具を探すために――。