169. 瓦礫
翌朝、宿を発ったルイたちは、街の外れまで歩いてから足を止めた。
「ニヴェラ、オルケードの位置は?」
ルイが尋ねると、ニヴェラは少しの間沈黙したあと、遠くを見つめながら静かに口を開いた。
「南西の方角……ここからだと相当距離がある。正確な位置は……」
「大丈夫だ。おおよその方角さえわかればいい」
ルイがそう言うと、ニヴェラは心配そうにルイを見た。
「しかし、ルイ……お前でも、一度にそんな距離を跳ぶのは……魔力の消耗が激しすぎる」
ニヴェラの声には、冷静を装いながらも滲む焦りがあった。
しかし、ルイは落ち着いた様子で軽く肩をすくめる。
「なんとかなる。俺を誰だと思ってる」
「……お前は確かに強い。しかし——」
「行くぞ」
ルイの言葉を合図に、強烈な魔力の波動が広がった。
次の瞬間――。
ルイ、エマ、ニヴェラ、そしてクロは、遥か高空、雲の上にいた。
エマの体がふわりと浮く。だが、それはルイが彼女を支えていたからだ。
眼下には、結界の失われたオルケードの無残な姿が広がっていた。
エマは息をのむ。
「そんな……」
かつて訪れた、あの美しく整った国の面影は、どこにもなかった。
建物は崩れ、街の中心部は瓦礫の山と化している。地面には無数の裂け目が走り、黒く焼け焦げた跡がいくつも残っていた。
まるで巨大な嵐がすべてを薙ぎ払ったように、街の形すら歪んで見えた。
ゴウッ!
突風が巻き起こった。
エマが驚いて顔を上げると、ニヴェラがすでに真っ直ぐ街へと急降下していた。
「ニヴェラ!」
ルイが短く呼びかけるも、ニヴェラは止まらない。
彼女の背から広がる光の翼が強く輝き、風を切る音とともに、一瞬で地上へと消えていった。
その姿に、エマは思わずルイの服を掴んだ。
「行こう、ルイ!」
「任せろ」
ルイが軽く頷くと、彼の魔力がふわりとエマの体を包んだ。
ルイはそのままエマを抱え、クロとともに急降下を開始する。
地上へ近づくにつれ、破壊された街の惨状がよりはっきりと見えてきた。
そして——崩れた建物の間で、砂煙の中に立ち尽くすニヴェラの姿が目に入る。
彼女は無言で、目の前の光景を睨みつけていた。
その拳は白くなるほどに握りしめられている。
「ニヴェラ……」
ルイが静かに呼ぶと、彼女は微かに肩を揺らした。