168. 隙
宿の部屋で、ルイとエマ、そしてクロは体を休めていた。
ニヴェラは隣の部屋にいるが、扉越しに気配を感じる。彼女が一睡もしていないことは、ルイにもエマにもわかっていた。
「ねえ、ルイ……」
エマがベッドの上で身を起こし、小さな声で呟いた。
「どうした?」
「……風の古代魔法具を狙った闇の魔法使いたちが、オルケードを襲ったのかな?」
ルイは少しの間黙り込んだあと、静かに言った。
「その可能性は高いな」
「じゃあ……風の古代魔法具を持ってるニヴェラがオルケードに戻ったら、今度はニヴェラが狙われるんじゃ……?」
不安げなエマの言葉に、ルイはゆっくりと頷いた。
「そのとおりだ。ニヴェラは魔法具を上手く隠しているが……感情的になればなるほど隙が生まれる」
「……ニヴェラが感情的に?」
「普段の彼女ならありえないが、もしオルケードが崩壊していたら……冷静さを失って、ニヴェラの持っている古代魔法具が暴走してしまうかもしれない」
エマは息を呑んだ。
「そんな……!」
「だからこそ、俺たちが一緒に行くんだ。エマ、いざというとき、お前ならニヴェラを止められる」
「え?」
思いがけない言葉に、エマは目を瞬かせた。
「ニヴェラはエマのことを信頼してる。それに……エマなら、魔法じゃなくても、ニヴェラを止められる気がする」
ルイの言葉には確信がこもっていた。
けれど、エマは不安を拭えず、唇を噛む。
「……もし、ニヴェラが暴走したら、本当に私に止められるのかな……?」
ルイは一瞬目を伏せ、それから優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。もし難しければ……俺が強引に止める」
「……うん」
エマは深く息を吐き、小さく頷いた。
隣の部屋から、かすかに床を軋ませる音が聞こえた。
ニヴェラもまた、不安の中にいるのだと、エマは改めて思い知った。