166. 不安定
王宮のすぐ近くの街中で、ルイとエマは焦った様子のニヴェラを見つけた。
彼女もまた、ルイとエマに会いに王宮へ向かっていたようだ。
「ルイ! エマ!」
「ニヴェラ、大丈夫なの?」
「私は大丈夫だ。だが……」
ニヴェラは自分の腕につけた金の腕輪を二人に見せた。
腕輪には、透明な球体が埋め込まれており、その中で黒い雲のようなものが不規則に渦巻いていた。
「オルケードが危ない……」
「オルケードが!?」
驚くエマに、ニヴェラは険しい表情で説明を続ける。
「これはオルケードの安定を示す腕輪だ。オルケードが雲の上に存在できるのは、守護者たちの魔法によって空と風が制御されているから。しかし、この腕輪がこれほど乱れているということは……」
彼女は一度、言葉を切ると、唇を噛んだ。
「国が墜落しかけているか、あるいは……すでに……」
その言葉に、エマは息をのむ。
「ニヴェラ、オルケードに戻るつもりか?」
ルイが冷静に問いかけると、ニヴェラは静かに頷いた。
「すまない……何が起きているのか、確認しに行かねばならない」
「ルイ、私たちも一緒に行こう!」
エマが迷いなく言うと、ニヴェラは驚いたように目を見開いた。
「エマ、気持ちは嬉しいが……」
迷うニヴェラに、ルイが尋ねる。
「オルケードは今どこにある?」
「私が全速力で飛んでも、ここから一週間はかかる距離だ」
その言葉を聞き、ルイは一瞬考え込んだ後、静かに口を開いた。
「わかった。俺の魔法である程度ワープした後、そこからニヴェラの風魔法で飛んでいこう」
「いいのか……!?」
ニヴェラは驚きの表情を見せる。
「ああ。ゼファンのことも心配だしな」
「しかし……二人に迷惑はかけたくない。風の古代魔法具と雷の古代魔法具をルイに託して、私一人で向かうのはどうだ?」
迷いながらも提案するニヴェラに、ルイは静かに首を横に振った。
「少なくとも、風の古代魔法具は最後までニヴェラが持っておくべきだ」
ニヴェラは一瞬、何かを言いかけたが、ルイの真剣な眼差しに口をつぐむ。
「それに、俺たちは仲間だ。最後まで一緒に行動しよう」
ルイの言葉に、ニヴェラは目を伏せ、しばらく沈黙した後、小さく頷いた。
「……すまない」