162. 永住
しばらくして、ルイとエマはニヴェラとクロを探しに、デア・ラキーナの街を歩き始めた。
道中、街の女性たちがルイを興味深そうに見つめている。
「……あれが噂の男?」
「レオノーラ様が特別に許可を出したらしいわ」
「どうしてかしら?」
そんなひそひそ話が耳に入るが、ルイは全く動じる様子もない。
レオノーラが、デア・ラキーナ国内に例外として、男性が一人滞在していることを公表したのだ。
(ルイはどこに行っても目立つんだよね……)
エマは半ば諦めたように心の中でつぶやく。
ルイはニヴェラの魔力を手掛かりに進み、エマはその後をついていく。
エマもニヴェラの魔力を感じ取ることはできるが、多くの魔力が入り混じる街中では、特定の魔力を探し出すのは難しい。
やがて、活気あふれる食事処へとたどり着いた。
ルイとエマが中へ入ると、店の奥でニヴェラがデア・ラキーナの女戦士たちと楽しげに食事をしているのが見えた。その足元では、クロが丸くなって眠っている。
「ねえ、ルイ。なんだかニヴェラ、すごく楽しそうだね」
「ニヴェラ、このままデア・ラキーナに永住したりしてな」
「ええっ!?」
「冗談だ」
ルイは口元に微笑を浮かべながら答える。
エマは足早にニヴェラの元へと駆け寄った。
「ニヴェラ!」
「おお、エマ! どこに行ってたんだ?」
「探し物だよ! ちゃんと見つけてきた!」
「探し物?」
(ニヴェラってば、古代魔法具のことをすっかり忘れて観光を楽しんでる……)
エマは内心ため息をつく。
「ニヴェラこそ、どこで何してたんだ?」
ルイが問いかけると、ニヴェラは豪快に笑いながら、周囲の女戦士たちを指さした。
「ああ、こいつらと戦ったら意気投合してな! すっかり仲間だ」
「ニヴェラ、デア・ラキーナに永住しちゃいなよ!」
「そうよ! この国、最高でしょ?」
女戦士たちが口々に声を上げる。
「永住権が欲しい気持ちは山々だが……」
「どうしたの?」
エマが尋ねると、ルイが横からぼそりと呟いた。
「デア・ラキーナに永住を決めると、出国が禁止されるんだろう」
「ええっ!? それはダメだよ!」
エマが思わず声を上げると、ニヴェラは苦笑いしながら肩をすくめた。
「わかってるさ」
「えー、残念!」
「会えなくなっちゃうじゃない」
「寂しいなあ」
女戦士たちが惜しむように言うと、ニヴェラも珍しく名残惜しそうな表情を見せた。
「そうだ、出発までの間、私とルイは王宮に泊まらせてもらってるけど、ニヴェラは来ないの?」
「王宮じゃ、みんなと騒げないからな」
「じゃあ、次の出発のタイミングが決まったら、すぐに連絡するね」
「それまでまだしばらくデア・ラキーナにいるのか? それならいい温泉を教えてもらったんだ。一緒に行こう、エマ」
「温泉!? いいね! 行こう!」
エマが嬉しそうに目を輝かせると、ニヴェラがふとルイの方を見て言った。
「お前も行くか?」
「いや、女湯しかないでしょ!?」
エマが即座に否定すると、ニヴェラは不思議そうに首を傾げる。
「ダメなのか?」
「ダメ!」
エマが顔を赤くして叫ぶが、ルイは隣で無言のままだった。