161. 新時代
レオノーラとフィオナが去り、部屋にはエマとルイだけが残った。
窓の外には、デア・ラキーナの街並みが静かに広がっている。だが、平穏な風景とは裏腹に、これから起こることは穏やかではなかった。
「エマ、起きたばかりで悪いが話がある」
ルイが真剣な表情で切り出す。
「どうしたの?」
エマはベッドの上で体を起こし、ルイの顔を見つめた。
「リーナから連絡があった」
「リーナから?」
彼女の名前が出た瞬間、エマの中に警戒心が走る。
リーナがわざわざルイに連絡を入れてくるということは、それが緊急性の高い知らせである証拠だ。
「ああ。反乱軍がついに魔法連盟本部を襲撃するらしい」
ルイの言葉に、エマの心臓が大きく跳ねた。
「それって……」
「俺も行くことになる」
ルイの声には迷いがなかった。
「……私も行く!」
エマは即答した。ルイだけを危険な場所に行かせるわけにはいかない。それに、自分もまた、魔法連盟に対して言いたいことが山ほどあった。
「ありがとう」
ルイは微笑んでそう答えた。
「だが、すぐには行かない。反乱軍はこれまでごく一部の魔法連盟支部を襲撃したらしいが、これから各地域で一斉に支部へ攻め込むらしい」
「各地域で……すごい勢力だね」
「ああ。今の魔法連盟はそれだけ人々から反感を買っているというわけだ」
ルイの言葉には、どこか冷静な分析が混じっていた。
魔法連盟は表向きは秩序を守る組織だったが、実際には権力を振りかざし、多くの魔法使いたちを抑圧してきた。そのひずみが、ついに爆発しようとしているのだ。
「魔法連盟の各支部を一斉に攻めれば、少しすれば本部の警備が手薄になる。リーナたちはそこを狙っている。俺たちが動くのもその時だ」
「また魔法連盟のガーディアンズと戦うことになるんだね」
「そうだな。手薄になるからこそ、少数精鋭部隊が本部に残るだろう」
ガーディアンズ――魔法連盟の精鋭部隊。彼らはただの兵士ではなく、選ばれし強者たちだった。並の魔法使いでは歯が立たない。
「……」
「不安か?」
ルイが静かに問いかける。エマは少しだけ迷ったが、正直に答えることにした。
「……少しね」
すると、ルイは穏やかな表情で言った。
「大丈夫だ。反乱軍も人殺しがしたいわけじゃない。俺の役目はあくまで魔法連盟の拘束だ。それに、エマは無理に戦わなくて良い」
その言葉に、エマの胸の奥が温かくなる。ルイはいつもそうだ。戦いに身を投じながらも、エマのことを第一に考えてくれる。
「……わかった」
「出発まで、しばらくの間ここに泊めてもらおう」
「うん、そうだね」
エマはゆっくりと深呼吸した。戦いが迫っている。魔法連盟本部を襲撃する――それはつまり、今後の魔法界の在り方を変える戦いになるということだ。
これが、新たな時代の始まりなのかもしれない。