160. 感謝
エマがゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が目に映った。
(ここは……)
ぼんやりとした頭で周囲を見回す。豪華な装飾の施された天蓋付きのベッド、温かみのある光を灯すランプ、そして静かに座るルイの姿。
「エマ、目が覚めたか?」
ルイがソファから立ち上がり、安心したように微笑んだ。
「ルイ……ごめん、寝てたみたい」
「いや、俺が眠らせたんだ」
「え?」
エマは驚いたが、すぐに洞窟での出来事がぼんやりと脳裏に浮かんできた。
「洞窟で……何かあったんだよね?」
「覚えているか?」
「うーん……あんまりよく覚えてないんだよね」
エマは首をかしげる。微かに赤い光が見えた気がするが、それ以上は思い出せない。
「そうか」
ルイは優しく頷く。
「ルイは大丈夫だったの?」
「ああ。何が起きるかは予想してたしな」
「古代魔法具は?」
エマが尋ねると、ルイはポケットから雷の古代魔法具を取り出し、エマの前に差し出した。
青白い雷の光がほのかに揺らめき、その神秘的な輝きにエマは目を奪われる。
「無事に手に入ったんだね。よかった」
エマは安心したように微笑んだ。
すると、部屋のドアがノックされる。
「入れ」
ルイが答えると、扉が開き、レオノーラと彼女の妹フィオナが姿を現した。
「もう大丈夫なのか?」
ルイはフィオナに視線を向ける。
フィオナはルイの前で静かに頭を下げた。
「助けていただいて、ありがとうございました」
まだ本調子ではないのか、彼女の声は少し弱々しかったが、その瞳には感謝の色が宿っていた。
「エマの方こそ、大丈夫なのか?」
レオノーラがエマにたずねる。
「眠っちゃっただけみたいなので……大丈夫です」
エマは笑顔で答えた。
しかし、レオノーラはふとルイの手元に目を向け、雷の古代魔法具を見つめる。
その表情がわずかに引き締まる。
「雷の古代魔法具……私も見るのは初めてだ。持っていくのだな?」
「ダメか?」
ルイが淡々と問い返すと、レオノーラは首を横に振った。
「いや、問題ない。あの湖の何かも破壊してくれたのだろう?」
「ああ。もう命をかけた防御魔法は不要だ」
「……感謝する」
レオノーラは静かに言葉を紡いだ。
彼女の声には、これまでの威圧的なものではなく、純粋な敬意が込められていた。
「ここで必要なだけゆっくり休むと良い」
ルイとエマは、彼女の言葉に頷いた。