表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/207

159. 大丈夫

 ルイはエマを抱きかかえ、静かに洞窟の奥を振り返った。


 闇に覆われていた空間は、鏡が砕けたことで少しずつ光を取り戻している。


 手に持つ雷の古代魔法具『ストーム・ソルヴィール』は、まるで生きているかのようにわずかに震え、雷光がその表面を走った。


「あともう少し……」


 ルイは低く呟いた後、エマの寝顔を見下ろす。


 穏やかな表情。


 いつものエマのままだ。


「エマが闇に堕ちるはずがないのにな」


 そう言いながら、ルイは小さく息をついた。


 あの湖の力は最も恐れるものを映し出すという。


 つまり、あのエマの姿は、ルイが心の奥で恐れている可能性の一つだったのだろう。


 だが、エマは違う。


 彼女はどんな困難があっても、決して闇に飲まれることはない。


 ――そう思いたかった。


 ルイは視線を落とし、腕の中で眠るエマのぬくもりを感じる。


「……エマ、お前は大丈夫だよな?」


 囁くように問いかけるが、エマは答えない。


 ルイは一度だけレクス・ソルヴィールを握りしめると、静かに洞窟をあとにした。


 湖の外――。


 ルイとエマが湖に入ってから、どれほどの時間が経っただろうか。


 湖のほとりでは、レオノーラ女王とヴァレリア、そして数名の女戦士たちが待機していた。


 レオノーラは湖面をじっと見つめている。


「……帰ってこなかったら、どうするつもりですか?」


 ヴァレリアが低い声で尋ねる。


「ふっ……もし戻ってこなかったら、どうもしないさ。私が決めたことだ」


 レオノーラは微かに笑ったが、目は冗談を言っているようには見えなかった。


「だが、あの男は戻ってくる……そうだろう?」


 その言葉を証明するかのように――。


 ゴボッ……!


 湖面が揺れ、白い光がほとばしった。


 次の瞬間、水柱が舞い上がると、ルイの姿が湖から浮かび上がった。


 彼の腕の中には、眠ったままのエマが抱えられている。


「無事か!?」


 レオノーラが思わず駆け寄る。


 ルイは静かに湖の岸辺へ降り立つと、ゆっくりとエマを横たえた。


「心配ない。ただ、少し疲れただけだ」


 そう言って、ルイは手にしていた雷の古代魔法具『ストーム・ソルヴィール』を軽く掲げた。


「……手に入れたのか」


 レオノーラの目が驚きに揺れる。


 ルイは無言で頷いた。


 その瞬間、湖の水面が静かに輝きを増し、まるで全てを見届けたかのように静かに穏やかになっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ