157. 恐怖
ルイとエマは、レオノーラとヴァレリアと共に、街の中心部にある湖へと向かっていた。
道中、ルイの姿を見た国民たちは驚愕の声をあげる。
「男……!? ありえない!」
「どうやって結界を通ったんだ!?」
「女王陛下が一緒にいる……いったい何が……?」
ざわめきが次第に大きくなっていく中、ルイはまるで気にしていないかのように歩を進め、隣を歩くエマに声をかけた。
「エマ、怖いものってあるか?」
「怖いもの? うーん……急にどうしたの?」
エマは首をかしげながら考える。
「おそらくだが、これから俺たちはとんでもない恐怖を味わうことになる」
ルイの低い声に、エマは思わず足を止めた。
「え……幻影ってこと?」
「幻影の部分もあれば、現実として具現化される部分もあるだろう」
ルイは冷静に言う。
「それって……すごく危険なんじゃ……」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
ルイは穏やかに微笑んだ。
エマは少しの間、その顔を見つめてから、ゆっくりと頷いた。
「……わかった」
やがて、一行は湖のほとりへとたどり着いた。
湖は澄んだ青色をたたえ、静寂に包まれている。しかし、その奥には計り知れない魔力のうねりが感じられた。
レオノーラは湖を見つめ、ゆっくりと杖を掲げる。
「――ラピデウム」
女王が呪文を唱えると、湖全体に張り巡らされていた魔法の波動がゆっくりと変化し始めた。
湖面には金色の光が走り、次第に淡い霧のように消えていく。
それと同時に、周囲の空気が一気に変わった。湖の奥底から何かが目覚めたような、不気味な圧力が漂う。
レオノーラはルイとエマに目を向け、静かに言った。
「……気をつけろ」
その短い言葉には、王としての警告と、ひとりの姉としてフィオナを救ってくれた恩人への思いが込められているようだった。
ルイとエマは同時に頷いた。
「エマ、飛び込むぞ」
「飛び込むの?」
「ああ。大丈夫だ」
ルイは迷いなくエマの手を取り、二人で湖の中へと足を踏み入れた。
その瞬間――。
二人の身体はまるで湖に吸い込まれるように、一瞬で姿を消した。