153. 古代魔法具『レクス・ソルヴィール』
フィオナの寝顔を見つめながら、エマは不安げな表情を浮かべた。
「ルナ、本当に治せるの……?」
小さな声で問いかけると、ルナは黙ったままフィオナの上に両手をかざし、じっと何かを調べるように目を閉じた。
室内の空気が張り詰める。
やがて、ルナの瞳がゆっくりと開かれる。
「このままだと、あと数日で死ぬな」
淡々とした声でそう告げると、エマは息を呑んだ。
「……!」
レオノーラは拳を握りしめ、目を伏せる。
女戦士たちもまだ警戒を解かず、じっとルナとエマを見つめている。
ルナは一度深くため息をつくと、静かに呟いた。
「仕方ない」
そう言いながら、彼女の姿がゆっくりと変化していく。
流れる髪は短くなり、輪郭が少しずつ変わっていく。
ほんの数秒の間に、そこに立っていたのは――ルナではなく、ルイだった。
「……!?」
レオノーラと女戦士たちは息を飲み、室内がざわめく。
「お、男……!?」
「ありえない……!」
「どうやって結界を……!?」
一気に騒然となる空間の中で、ルイは静かに杖を握りしめたまま言った。
「少し静かにしてくれ」
その冷静な声に、女王を含めた全員が一瞬言葉を失う。
ルイはゆっくりと自分のソルヴィールを握りしめ、目を閉じた。
すると、ソルヴィールがまばゆい光を放ち、ゆっくりと形を変えていく。
その場にいる誰もが、その神秘的な光景に息を呑んだ。
みるみるうちに、ルイのソルヴィールは本来の姿を取り戻していく――。
古代魔法具『レクス・ソルヴィール』。
その圧倒的な力を前に、レオノーラが驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それは……!」
震える声で呟くと、女戦士たちも息を呑んだまま動けずにいる。
一方、エマはルイをじっと見つめ、心配そうに問いかけた。
「ルイ、もしかして……」
「……ああ」
ルイは短く答えた。
「レクス・ソルヴィールの力を使う」
エマは眉をひそめる。
「でも、大丈夫なの……?」
「大丈夫だ。もしもの時には、エマ、頼りにしてるからな」
ルイはエマに向けて軽く微笑んだ。
その微笑みが、エマの胸を締めつける。
「……うん」
エマは不安を拭いきれないままも、小さく頷いた。
ルイはゆっくりと杖をフィオナに向け、レクス・ソルヴィールにそっと手を添えた。
「ラクリマ・ヴィタエ」
静かに呪文を唱えると、レクス・ソルヴィールが先ほどよりもさらに強大な光を放ち始めた。
その光は柔らかく、あたたかく、部屋全体を包み込んでいく。
「……!」
レオノーラも女戦士たちも、その神秘的な輝きに言葉を失った。
そして、フィオナの身体が同じく光を帯びる。
まるで命そのものが輝いているかのような、優しくも力強い光。
光はやがて収束し、ゆっくりと弱まっていった。
「フィオナ……!?」
レオノーラは真っ先に駆け寄る。
青白かったフィオナの顔には、少しずつ血色が戻っていた。
「まさか……」
レオノーラは驚き、そっと妹の頬に触れる。
すると――
「ん……」
フィオナが、かすかにまぶたを動かした。
「フィオナ……!」
レオノーラの目に涙が浮かぶ。
「治ってる……!? それどころか、魔力が……!」
女戦士たちも驚愕する。
ルイは静かに言った。
「完全に元通りにはならない。だが、これ以上魔力を失っていくことはないだろう」
その言葉に、レオノーラの表情が大きく揺れる。
彼女は震える手でフィオナの身体をそっと抱きしめた。
「……ありがとう……!」
滲んだ涙が、フィオナの髪に落ちていった。
ルイは何も言わず、ただ静かにその光景を見つめていた――。