151. 隠し事
レオノーラ女王は歯を食いしばり、炎をまとった剣を振り上げる。
「フレイム・ヴァルキュリア!」
燃え盛る剣が一瞬で膨張し、空間を裂くようにルナへと襲いかかる。
轟音とともに炎の刃が舞い踊るが、ルナは冷静に杖を掲げた。
「シアーテ・オルビス!」
紫紺の防御障壁がルナの周囲に展開され、すべての炎を弾き返す。
「……やるな」
レオノーラが低く呟き、再び剣を振るう。
「インフェルノ・ディヴァイド!」
剣が膨大な炎をまとうと、彼女はそれを地面に叩きつけた。
その瞬間、床が裂けるほどの爆炎が巻き起こり、炎の奔流がルナを包み込む。
「ルナ!」
エマが叫ぶ。しかし――
「ノクティス・アウリス!」
ルナの体を覆う黒紫の防御障壁が、炎の波を完全にかき消した。
「……嘘だろう?」
レオノーラの表情に驚愕が走る。
「ずいぶんと強力な攻撃魔法だが、俺の防御を貫くにはまだ足りない」
ルナが淡々と告げる。
レオノーラは息を整え、剣を強く握りしめた。
「ならば、これでどうだ!」
彼女は剣を掲げ、城内全体に響き渡るほどの大きな詠唱を始める。
「ヘリオス・バーンブレード!」
剣が太陽のように光り輝き、まるで大気そのものを燃やし尽くすかのように膨れ上がる。
ルナは一歩前へと進み、静かに杖を構えた。
「シアーテ・オルビス・マグナ!」
先ほどとは桁違いの巨大な防御障壁が展開される。
その瞬間――
剣の斬撃と防御魔法が激突し、凄まじい爆風が城内を揺るがした。
ドォンッ――!
壁や柱が軋み、建物が一部崩れ落ちるほどの衝撃。
しかし、ルナは微動だにせず、完全に攻撃を防ぎきっていた。
「そんな……この魔法を防ぐだと……?」
レオノーラの目がわずかに揺れる。
そのときだった。
――同じ階の奥の部屋。そこから、かすかに魔力が流れ出ているのをルナは感じ取った。
視線を向けると、扉の前に護衛の女戦士が立っていた。
(あの部屋……誰かが倒れている?)
ルナは直感的にそう悟る。
「……なるほどな」
ルナは呟くと、静かに杖を振った。
「グラヴィタス・チェイン!」
金色の光の輪がレオノーラの身体を取り巻き、拘束魔法が発動する。
「なっ……!?」
レオノーラは驚愕の表情を浮かべ、抵抗しようとするが、魔法の鎖が彼女の動きを封じた。
「レオノーラ女王。お前は何かを隠しているな?」
ルナは冷静に問いかける。
エマもまた、ルナの視線を追い、奥の部屋へと目を向けた。
「隠してる……?」
レオノーラは口を開きかけたが、言葉を飲み込むように沈黙する。
「話してもらうぞ」
ルナが低く告げると、城内の緊張が一気に高まった――。