15. 入学式
入学式当日の朝、エマはルミナス・カレッジの鐘の音で目を覚ました。
新入生たちはローブをまとい、それぞれのカレッジから列を成して中央広場へ向かう。そこには、天空に浮かぶ大講堂「セレスティアム」が、輝くような光を放ちながら待ち構えていた。
広場は新入生たちで溢れかえっていた。エマはルミナス・カレッジの列に並びながら、自分のローブの裾を軽く整えていた。周りでは、同じ新入生たちが興奮と緊張を抱えた様子で小声で話し合っている。
「人間の新入生ってのはどいつだ? 俺が絶対追い出してやる。このアルカナ魔法学校に人間がいるなんて信じられない」
その言葉はエマのすぐ後ろから聞こえてきた。彼女は思わず身を縮めた。
「おい、静かにしろよ!」もう一人の声が、先ほどの発言を抑えるように鋭く言い放った。
エマはその声に振り返ると、背後には他のカレッジのローブを着た二人の少年が立っていた。一人は挑発的な表情を浮かべ、もう一人はその隣で冷静な顔つきで相手を制止していた。
「なんだよ、ただの事実を言っただけだろ?」挑発的な少年が不満げに言い返す。
「君のその言葉が誰かを傷つけることもあると、まだ分からないのか?」冷静な方の少年は一歩前に出て、厳しい目で相手を睨みつけた。
広場のざわめきが一瞬止まり、周囲の学生たちの視線が彼に集まった。その少年は深紅の髪に鋭い金の瞳を持つ美しい容貌の持ち主で、気高いオーラを放っていた。瞬く間に噂が広がる。
「ファルディオン家のカイ様だ……!」
「本物だ……!」
エマはその名前を聞いて驚いた。カイ・ファルディオン――古代から続く名門の末裔であり、魔法界では既に伝説的な存在だと言われている人物だった。
「魔法界で何が正しいかを決めるのは、生まれや血筋じゃない」
カイは挑発的な少年に冷静な口調で続けた。
「ここは努力と才能を育てる場だ。もしその意味が理解できないのなら、今すぐ出ていけ」
挑発的な少年は唇を噛み、無言で視線をそらした。広場には再びざわつきが戻ったが、そこにはカイの毅然とした言葉の余韻が漂っていた。
カイは一瞬だけエマに視線を向け、柔らかな笑みを浮かべた。
やがて全カレッジの代表者である教授たちが現れ、それぞれの新入生を天空の大講堂「セレスティアム」へと導いた。空中階段がゆっくりと現れ、学生たちはその輝く道を一歩ずつ進んでいく。
エマはソフィアと肩を並べながら、その荘厳な階段を上っていった。足元には雲が漂い、遠く下には広場が見える。「こんな場所があるなんて……」とエマは思わずつぶやいた。
セレスティアムの中は、まるで星空の中にいるような幻想的な空間だった。壁には輝く文字が浮かび上がり、天井には夜空が広がっている。新入生たちはカレッジごとに席についた。
そして、壇上に立つ老魔法使いが、穏やかな声で挨拶を始めた。
「新入生諸君、よくぞこのアルカナ魔法学校へたどり着いた。我らは、古代より続く魔法の伝統を守りつつ、新しい未来を築く者たちを歓迎する」
式が終わると、新入生たちは再び天空の階段を下り、それぞれのカレッジへ戻った。エマは、胸の高鳴りを感じながら寮への道を歩き始めた。