149. 罰
エマが目を覚ますと、見慣れない広い部屋の中にいた。
「ルイに連絡を――」
そう思い、魔力を込めようとする。しかし、次の瞬間、エマは自分の両腕にはめられた冷たい手錠に気がついた。
「手錠……魔法精霊が反応しない――」
「それは魔力を封じる拘束具だ」
不意に背後から声が響いた。振り向くと、一人の女性が立っていた。引き締まった体つき、鋭い眼光――デア・ラキーナの戦士だ。
「お前、人間だな?」
彼女は腕を組みながらじっとエマを見つめる。
「……」
「見ればわかる」
(この人、強そう……)
「私の名はヴァレリア。デア・ラキーナの王宮警備を任されている者だ」
「……」
「お前のソルヴィールを奪おうとしたが、なぜか触れることができなかった。見たことのない防御魔法がかかっているな」
「……」
「安心しろ。傷つけるつもりはない。だが、あの湖は立ち入り禁止だ。それに、お前たちは無許可で入国している。不審者として拘束させてもらった」
「……ルナは?」
「ルナ? あの女のことか。どこにいるかは知らん。捕えようとしたが、すぐに逃げられた。魔力を抑えていたようだが、相当な実力者だろうな」
エマは少しホッとする。
「あの……勝手に入国してすみませんでした。探し物をしていて、それで、どうしても……」
「そうか。だが、女王に報告せねばならん。ついてこい」
「女王……?」
「そうだ。お前の処遇は女王陛下が決める。さあ、行くぞ」
デア・ラキーナの女戦士に促され、エマは城の廊下を歩く。豪華な装飾が施された長い回廊を進み、やがて最上階にある大きな扉の前に立たされた。
「ここだ」
女戦士は扉をノックする。
「入れ」
中から威厳ある女性の声が響いた。
女戦士は「失礼します」と一礼し、扉を開く。エマもそれに続いた。
そこは広大で荘厳な部屋だった。煌びやかな装飾、豪奢な絨毯、そして中央の奥に鎮座する王座。その椅子に座るのは、長い脚を組み、美しい金色の髪を持つ女性だった。
「陛下、湖にいた人間の娘です」
女戦士がそう報告すると、王座の女性はゆっくりとエマに視線を向けた。
「私の名はレオノーラ。この国の女王だ」
エマは無言で彼女を見つめる。
「お前、歳はいくつだ?」
「今年で十四です」
「十四か……惜しいな。あと三年早ければ、この国で育ててやることもできたのに」
「……」
「さて――」
女王は鋭い視線を向ける。
「お前、あの湖で何をしていた?」
「……探し物を」
「探し物? あの湖で?」
「はい」
「……あそこはデア・ラキーナで最も神聖な場所。国民ですら入ることは許されない。無断で侵入したとなれば、相応の罰を受けてもらう」
「……罰?」
「そうだ。三カ月間、ここで監禁する」
「三カ月……!?」
「そうでもしなければ、国民に示しがつかんからな」
エマは息を呑む。
「三カ月経てば、きちんと外に出してやる。悪いようにはしない」
「そんな……困ります――!」
エマが抗議しようとした、その瞬間。
――天井が爆ぜるように吹き飛び、王宮全体が激しく揺れた。
「何だ!?」
王宮の戦士たちが一斉に警戒し、杖を構える。
砕けた屋根の向こう、夜空を背にして優雅に宙に浮かぶ一人の人物。
「ルナ……!」
エマが驚きの声を上げる。
ルナは冷たい視線を王宮内に向け、静かに言った。
「……返してもらおうか。俺の仲間を」