148. 幻影
デア・ラキーナの女性たちに案内され、ルナ、エマ、ニヴェラ、クロは結界の内側へと入った。
「女性だけが通れる結界、ってことかな?」
エマが周囲を見渡しながら呟く。
「その通りだ。男はどんな理由があろうとも、決して結界を越えることはできない」
デア・ラキーナの女性の一人が毅然とした口調で説明した。
(ルイ、大丈夫かな……とりあえず、問題なく入れたみたいだけど)
エマは少し心配そうにルナを見つめた。
結界を抜けた先には、まだ海が広がっていた。しかし、島の沿岸に近づくにつれ、海の上に大きな競技場のような建物が姿を現す。
「お前には、あそこで女戦士たちと戦ってもらう」
長身の女性が競技場を指さしながら告げる。
「あれは普段、孤児を鍛える場所なのか?」
ニヴェラが問いかけると、女性は頷いた。
「そうだ。試合に負ければ、すぐに結界の外へ追い出す。覚悟はいいか?」
「望むところだ」
ニヴェラは不敵に笑い、競技場へと視線を向けた。
競技場に到着すると、ニヴェラはすぐに戦いの準備を始めた。
その様子を見つめながら、ルナが小声でエマに囁く。
「エマ、今のうちに古代魔法具を探しに行くぞ」
「えっ、でも……ニヴェラが戦いに勝ってからでいいんじゃない?」
エマは戸惑いながらもルナを見る。
「時間がない。幻影魔法で、俺たちがここにいるように見せる。島の連中には気づかれない」
「……わかった」
ルナが軽く杖を振ると、エマの視界が一瞬で歪んだ。次の瞬間、二人はデア・ラキーナの全貌を見下ろせる崖の上に立っていた。
「小さな国だね」
エマが風に揺れる髪を抑えながら呟く。
「孤児だけで成り立ってるからな」
「古代魔法具はありそう?」
「おそらく、あの中心にある湖だ」
ルナが指差す先、街の中心部には澄んだ水をたたえた湖が広がっていた。
「でも、街の人に見られちゃうね……」
エマは少し不安そうに呟く。
「あの湖には何らかの防御魔法がかけられているはずだ。近づいて確認する必要がある」
「うん」
ルナは再び杖を振ると、二人の足元がふわりと光に包まれ、一瞬で湖の上に転移した。
ルナは続けて、さらに別の呪文を唱える。
「ノクティス・ヴェーラム」
静かな波紋が湖全体に広がり、二人の姿が徐々に霞んでいく。
「……あれ? 湖の上を歩ける……!? これって……」
エマは驚いて足元を見下ろす。水面はまるで透明なガラスのように、わずかに揺らめいていた。
「この湖はもともと歩けるようになっている。俺がかけたのは幻影魔法だ。湖に入らない限り、俺たちの姿は見えない」
「そ、そっか。ありがとう」
「それにしても……」
ルナは湖の水面をじっと見つめながら、眉をひそめる。
「どうしたの?」
エマが不安げに尋ねると、ルナは低い声で答えた。
「この湖の防御魔法……下手に破壊すると、これをかけた人物の命にも関わる可能性が高い」
「えっ……!?」
エマの顔が強張る。
「それだけ強力な魔法で古代魔法具を守っている。つまり、命をかけてでも守ろうとしている誰かがいるはずだ」
「じゃあ、防御魔法をかけた人を探さないと――!」
その時だった。
「……!」
突如、湖の対岸から闇色の矢のような攻撃魔法が飛んできた。
「バレたか」
ルナが冷静に呟き、杖を構える。
しかし――
次の瞬間、無数の矢が降り注ぐ。ルナは素早く防御魔法を展開し、迎撃するが――
「エマ――!」
ルナが叫んだ瞬間、エマの方へ向かって眩い光線が直撃する。
その瞬間、エマの姿がかき消されるように、湖の上から消え去った。