142. ロリコン
数日後、エマとニヴェラは湖のほとりで、穏やかな時間を過ごしていた。マックスとクロも楽しそうに追いかけっこをしている。
「平和だな」
ニヴェラが湖面を眺めながらつぶやいた。
「幸せだね」
エマは微笑みながら答えた。
「……エマは、このままここに残ったほうがいいんじゃないのか?」
「ううん。最後までルイと一緒に旅をするって決めたから」
「そうか。でも、こんな危険な旅にお前が必要な理由が、私にはまだよく分からん」
「足手まといにはならないように頑張るよ」
エマは少し俯きながら答えた。その様子を見たニヴェラは、静かに頭を振った。
「心配するな。私もお前を守る」
「大丈夫だよ。でも……ありがとう、ニヴェラ」
エマが感謝の気持ちを込めて笑顔を向けると、ニヴェラも照れくさそうに笑みを浮かべた。
その時、サマーハウスのバルコニーからルイが顔を出し、大きな声で呼びかけた。
「エマ! ニヴェラ! ちょっと来てくれ!」
二人が急いでバルコニーに向かうと、そこには「Happy Birthday」と書かれたケーキと、リボンで丁寧に包まれた小さな箱が置かれていた。
「え……? 誰かの誕生日?」
エマがきょとんとした表情で尋ねると、ルイが微笑んで答えた。
「少し早いが、今のうちにエマの十四歳の誕生日を祝おうと思ってな」
「え、私!? わあ、本当に!? 嬉しい……!」
エマの目が輝いた。その反応にルイは満足そうに頷いたが、横にいたニヴェラが眉をひそめた。
「十四? 本当に? お前が?」
「あ、そっか……私、今年で十四歳なんだよね……」
「身長、低すぎないか?」
「色々あってね!」
エマが言い返すと、ニヴェラは小さく「ふーん」と呟いて、半信半疑のままだった。
その後、三人はケーキを囲みながら楽しい時間を過ごした。食事が一段落つくと、ルイがそっと差し出した小包を開けるよう促した。
エマが丁寧にリボンを解いて箱を開けると、中には薄いブレスレットが入っていた。繊細な細工が施された銀色のバンドに、青い宝石がはめ込まれている。
「これ、私に?」
「ああ。装着者を一度だけ致命的な攻撃から守る結界を張る魔法具だ。緊急時に役立つはずだ」
「えっ、こんなすごいもの……ありがとう、ルイ! 大事にするね!」
エマはブレスレットを両手で大切そうに握りしめた。
しばらくして、ルイとエマはリビングのソファで並んで寛いでいた。暖炉の火が静かに揺らめき、穏やかな空気が流れている。
「エマ」
「なあに?」
エマが柔らかな笑顔で応えると、ルイは一瞬ためらったような表情を浮かべ、少し真剣な口調で話し始めた。
「今まで本当にありがとう。そして、これからもよろしくな」
「……急にどうしたの?」
エマが不思議そうに首をかしげる。ルイはふっと笑うと、エマの額にそっとキスをした。
その瞬間、エマは夢魔法での出来事を思い出し、顔が一気に赤く染まった。胸が高鳴るのを抑えられず、目を逸らす。
しかし、そんな微妙な空気を壊すように、ニヴェラがリビングに入ってきた。
「ルイ……」
ニヴェラはルイの行動を目撃したのか、眉をひそめながら呟いた。
「お前、もしかして……ロリコンなのか?」
「違う!」
ルイはすぐさま否定するが、その必死な様子にエマは思わず吹き出してしまった。
「ぷっ……ふふっ……!」
「笑うなよ、エマ!」
ルイが赤くなって抗議するも、エマは笑いを止められない。
「いくら顔が良いからって、犯罪だぞ」
「だから違う!」
ニヴェラは呆れたように肩をすくめながらも、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
やがて三人の間に、穏やかな時間が流れた。暖炉の柔らかな光が、まるでそのひとときを祝福するように静かに揺らめいている。