14. 新しい杖
ヴィラニウムの儀式が終わり、魔法精霊を授かった新入生たちは寮へと案内された。
エマが寮の自分の部屋に足を踏み入れると、目の前には高い天井に大きな窓が広がり、優雅で静かな空間が広がっていた。テーブルの上には新入生向けの教科書やルミナス・カレッジの紋章の入った新しいローブが置かれている。
「ここが私の部屋……!」
エマは目を輝かせながら周囲を見渡した。その瞬間、背後でかすかな「シュッ」という音が響いた。
振り返ると、ルイがそこに立っていた。まるで空間そのものが切り裂かれ、彼が現れたかのようだった。周囲に一瞬だけ淡い光の残像が漂い、それもすぐに消えていった。
「ルイ!?」
驚きのあまり、エマは目を丸くした。
「魔法精霊をもらったようだな」ルイは口元に微笑を浮かべながら言った。
「いよいよ明日は入学式か」
「うん! 可愛いでしょ? ヴィラちゃんって呼ぼうと思ってるの! ルイにも魔法精霊がついてるの?」
「ヴィラちゃん……? ああ。だが、普段はクリスタルにしてポケットに入れている」
「そうだったんだ……」
エマは新たな発見に驚きつつ、精霊をちらりと見つめた。
「それより杖を買いに行くぞ」
「杖? 杖ならルイにもらったやつがあるよ」
「いつまでも子供用の杖じゃダメだ。エマの魔法に合った、新しい杖が必要だ」
「今の杖、気に入ってるのに……」
「いいから行くぞ」
ルイが杖を振ると、エマは一瞬だけ目の前が真っ白になり、次の瞬間、アルカナ魔法学校内で魔法の杖を販売する店の前に立っていた。
「ルイは魔法道具無しで瞬間移動できるの!?」
「ああ。魔力をかなり消費する高度な魔法だが、いつかエマにもできるようになるさ」
店の中に入ると、店の壁から天井にかけて数得きれない程の杖が並べられていた。
エマは目を見開きながら、その数々の魔法の杖が並べられた店内を見渡した。杖の種類は無数で、素材も形状もそれぞれ異なっている。木製のもの、金属製のもの、さらには魔法の結晶が埋め込まれた杖まで、どれも一つ一つが特別な輝きを放っているようだった。
「すごい……こんなにたくさんの杖があるんだ……でも、どうやって選べばいいの?」
「精霊を使うといい。自分の精霊に向かって魔力を込めるんだ」
「こうかな?」
エマは精霊に両手をかざし、魔力を込めて「ヴィラちゃん、杖を探して」と伝えた。
エマが精霊に向かって魔力を込めると、彼女の手のひらがほんのりと温かくなるのを感じた。エマの精霊もその瞬間、軽やかに跳ねて、エマの手に触れるように動いた。エマは目を閉じ、心を落ち着けて、精霊と一体化するような感覚を覚えた。
すると、エマの精霊がゆっくりと動き出し、店の中を歩き始めた。エマはその後ろを追うように歩いていく。精霊が立ち止まると、そこには細く美しい木の杖が一本、静かに置かれていた。
「これかな?」エマがその杖に手を伸ばすと、精霊がその杖の周りをぐるりと回り、ぴたりと座り込んだ。まるでそれが正しい杖だと言っているようだった。
「見つけたか。さすがだ」ルイは微笑みながら近づいてきた。
エマは杖を手に取ると、手のひらに温かさが広がり、杖全体が軽く震えるような感覚を感じた。杖の先端には青い結晶が埋め込まれており、その中に小さな光が煌めいている。
「これ……すごくぴったり!」エマは驚きと喜びの入り混じった声で言った。「こんなに感覚が合うなんて!」
「この杖ならもっと難しい魔法も扱えるようになる」
ルイがそう言うと、エマは杖をしっかりと握りしめた。その瞬間、精霊もエマの周りをくるくると回り始め、まるで喜びを分かち合うようにその尾を振っていた。
「ありがとう、ルイ!」エマは目を輝かせながら答えた。
店を出ると、「そうだ、精霊の使い方を教えておこう」とルイが話を切り出した。
「精霊は様々な使い方ができる。例えば新しい魔法を覚える際、コントロールのコツを自然と教えてくれるだろう。あとは、精霊をクリスタルにすれば、電話のような役割もしてくれる。俺に用がある時は、魔法で手紙を書くか、クリスタルを通じて呼んでくれ」
「そんな使い方もあるんだ……わかった、教えてくれてありがとう!」
「俺は授業があるから、またな」そう言ってルイは瞬間移動でその場から消えていった。
「本当に不思議な世界だな……でも、これからの生活がもっと楽しみになってきた!」エマは新しい杖を握りしめ、寮への帰り道を歩き始めた。彼女の足元では、ヴィラちゃんが軽快に駆け回っていた。