138. 闇の魔力
ノスヴァルドの手下である男が放った光る刃のような鉄塊は、ルイの防御魔法で相殺された。
「やはり全然ダメかあ」
ニヤリと笑いながらつぶやく男に、ルイは冷たく言い放つ。
「お前は……ノスヴァルドが闇の魔力から生み出した存在だな?」
「わーお! そこまで分かっちゃうの? 大正解!」
男はニヤリと笑いながら応じた。
「俺の名はザイフォス。戦いが俺のすべてだ!」
そう言うなり、ザイフォスは空中に無数の鋭い鉄塊を出現させた。
鉄塊は青黒い光を放ち、鋭い音を立てながら高速回転している。刃のように鋭利な鉄塊が三人を狙って猛スピードで襲いかかる。
「来る……!」
エマが声を上げると、ニヴェラが素早く呪文を唱える。
「エウロス・プロテクション!」
巨大な女神の姿をした精霊が出現し、両手から黄金色の光の盾を作り出した。鉄塊が次々に盾に当たり、甲高い音を響かせながら弾き飛ばされる。
「ノスヴァルドが闇の魔力から生み出した存在ってどういうことなの?」
エマはルイに尋ねた。
「禁呪だ。人の魂の一部を代償にし、虚無の闇から生命を創造する呪文だ。普通の生命体とは異なり、欲望しか持たない」
ルイが簡潔に答えるが、それ以上の説明をする間もなく、ザイフォスは再び攻撃の構えをとっていた。
「これでどうだ!」
ザイフォスは杖を掲げ、呪文を唱えた。
「オブスキュラ・フラグメンタ!」
空中に黒い稲妻が走り、無数の破片が生まれる。それらは鋭い矢のような形状となり、闇に覆われた風の渦と共に三人を包囲するように降り注いできた。
「防ぐ……!」
ニヴェラがすかさず呪文を唱え、精霊が両腕を広げた。
「アウラ・セレスティス!」
精霊の手から無数の光のリングが放たれ、闇の破片に命中しては消滅させる。
「エマ、お前はクロと一緒に少し離れてろ!」
ルイがそう言うと、エマはクロの背中に乗り、指示通り少し離れた場所へ移動した。
ザイフォスはさらに大きな魔力を放出し、別の呪文を唱える。
「インフェルナス・オルビス!」
頭上に巨大な球体が現れる。球体は赤黒く、内部では炎と闇が混ざり合って渦巻いている。
「重力を操るつもりか……」
ルイが呟き、冷静に対抗する呪文を唱える。
「グラヴィタス・アナイア!」
ルイの周囲に青白い光が広がり、その光が球体へと向かうと、巨大な球体が激しい振動を起こし、粉々に砕け散る。
だがその衝撃はすさまじく、エマとクロが大きく吹き飛ばされ、地面に転がり落ちる。
「エマ!」
ルイがすぐに駆け寄り、彼女を支え起こす。
「……大丈夫! 平気だよ」
エマは微笑みながら答えた。
「その小娘は何だ? 邪魔だろ? 殺してやるよ」
ザイフォスは楽しげに笑うと、次なる呪文の準備を始めた。