135. 別れ
「ルイ、どうしたの!?」
暗闇の中、エマは息を飲みながら問いかけた。
「どうしたって……何がだ?」
ルイの声は穏やかだが、どこか異様な空気が漂う。
「何って……いまの……」
「恋人にキスするのがそんなに変か?」
「恋人!?」
エマの心臓が大きく跳ね上がる。背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「エマ、今日は本当に様子がおかしいぞ? 何かあったのか?」
ルイは不思議そうにエマを見つめる。
「わ、わたし……ただ疲れてるのかも……ごめん……」
言葉が震えるのを隠せないまま、エマは視線をそらす。
「そうか。じゃあ、もう寝よう」
ルイはそう言い、エマの肩を優しく抱き寄せた。
「うん……」
エマは体を固くしながら目を閉じたが、頭の中で警鐘が鳴り響き続けていた。
翌朝、エマが目を覚ますと、隣にはまだ眠っているルイの姿があった。
「うーん……」
エマはぼんやりと考え込むが、すぐに隣のルイがゆっくりと目を開けた。
「おはよう」
ルイは柔らかく微笑む。
「おはよう」とエマも微笑み返す。
「昨日の続きでもするか?」
その言葉に、エマの心臓が一気に高鳴り、頬が熱くなる。
「ま、また今度ね……」
「まだ疲れてるのか?」
「ううん、寝たら元気になったよ」
「なら――」
ルイは言葉を区切りながら、そっとエマに顔を近づけてきた。そして、ためらうことなく唇を重ねる。
エマは驚きで目を見開く。
「嫌なのか?」
ルイが優しく囁くように尋ねる。
「嫌じゃないけど……」
そう言った瞬間、再びルイが微笑み、ゆっくりと彼女の方へ近づく――
その時、空気を切り裂くような声が響いた。
「起きろ! エマ!」
どこか遠くから、自分の耳をつんざくような叫び声――ルイの声だ。
「え……?」
エマは凍りつく。目の前のルイは穏やかな微笑みを浮かべ、何事もないかのように彼女を見つめている。
「どうした?」
その問いかけに答えることができないまま、エマは顔を曇らせる。
「今……誰かが……」
しかし、その言葉を飲み込む間もなく、もう一度叫び声が響き渡った。
「夢だ! 起きろ!」
世界が揺れ、エマは息を詰めた。
「戻らなきゃ……!」
その呟きとともに、彼女の姿が幼いローブ姿に変わる。
「どこにだ?」
目の前のルイが、切なげに彼女を見つめる。
「ルイ、ごめん。そして、ありがとう」
エマは微笑みながら、心の奥で別れを告げる。
「リーベル・エグゾーディウム!」
呪文とともに、幻想が砕け散った――。