132. 鉄壁の防御魔法
しばらくして、船はイゼルナの港へと到着した。
この都市は全体を囲むように巨大な運河が流れ、その水路には高度な防御魔法が施されていた。まるで街全体が魔法の水壁によって守られているようだ。
言われていた通り、イゼルナは複雑な階層構造を持ち、船は中階層の港に入った。下層は治安が悪く、近寄らないほうが賢明だという。
それに対し、中階層は意外にも活気にあふれ、色とりどりの屋台や市場が並び、商人たちの声が響いていた。貿易都市としての賑やかさが、あちこちに感じられる。
「この都市を抜けて北へ向かう。長居は避けたい」とルイが言う。
「だったら飛べば早い」とニヴェラが提案した。
ルイはためらうことなく頷き、エマを片腕でひょいと抱きかかえる。軽々と宙に浮かぶと、そのまま滑るように飛び立った。ニヴェラもすぐに追随する。
「なんでみんなほうき無しで飛べるの……」
悲しげにぼやくエマの頬を、クロが慰めるように舐めた。
しばらく北へと飛んで行ったところで、ルイとニヴェラが急に速度を落とし、空中で停止した。
「どうしたの?」とエマが尋ねる。
「門だ。それも――封鎖されている」とルイが言う。
エマが視線を正面に移すと、運河にかかる巨大な橋が見えた。その中央にはそびえ立つような門があり、上空まで伸びる鉄壁の防御魔法がきらめいていた。
「通れないってこと……?」
「橋にこんな門はなかったはずだ」とルイは眉をひそめた。
「面倒だが、一度港へ戻って海路を使って迂回するか?」とニヴェラが提案した。
ルイは少し考え、やがてにやりと笑いながら答えた。
「いや、すべて破壊していこう」
「え?」とエマはその意味がすぐに分からず、驚いたように反応する。
「ニヴェラ、エマ、フードを深く被って顔を隠しておけ」
ルイは静かに命じた。
そう言うと、ルイは始まりの杖を天に掲げ、冷静な表情で呪文を唱えた。
「ルイヌス・デストルクトゥス」
杖から発せられた光は一筋となり、空を突き抜けると運河や門にかけられていた防御魔法に広がり、瞬く間に強い輝きを放った。
その光は都市全体を包み込み、まるで太陽が地上に降り注いだかのように、眩しさで周囲の視界が奪われた。ガラスが割れるような音とともに、防御魔法は次々と崩壊していく。
「いくぞ」とルイが言い、瞬時にルイ、エマ、ニヴェラ、クロは一瞬にして北方へとワープした。
「どうしてあんなに目立つことをしたの?」エマは驚き、ルイに尋ねた。
「魔法連盟の支部があそこにあったからだ」
「それで?」とエマが続ける。
「反乱軍が動き出している。その支部も襲撃するつもりらしい。あの防御魔法は簡単には作れないし、壊すこともできない。だが、もし破壊しておけば、反乱軍が襲撃して逃げ道がないなんてことにならないだろう」
「反乱軍……リーナと連絡取ってたんだ? でも、そうすると反乱軍が防御魔法を壊したと思われるんじゃない?」とエマは心配そうに言う。
「それがちょうど良い」
ルイはそう答え、冷静な表情を崩さなかった。