131. 好み
数日後、船は目的地のイゼルナに近づいていた。
エマはニヴェラとすっかり打ち解け、クローキャットのクロも交えて客室のリビングでくつろいでいた。
「もうすぐイゼルナに着くぞ。それから――エマ、気をつけろ。あそこには魔法連盟のイゼルナ支部がある」
「えっ!? 魔法連盟の支部が!?」
「俺とエマは連盟に目をつけられている。連中が動けば、厄介なことになる」
エマは考え込み、少し不安げな顔で口を開いた。
「……ルナの方が安全じゃない?」
ルイは少し考え込んでから頷き、呪文を唱え始めた。見る間に彼の姿が美しい女性へと変わり、長い髪が艶やかに揺れる。
その変化を間近で見ていたニヴェラは目を丸くし、口をぽかんと開けたまま固まっていた。
「ニヴェラ、大丈夫?」とエマが心配そうに声をかける。
「…………」
答えるどころか、視線を外すことさえできないニヴェラに、ルナ――ルイは眉をひそめた。
「やっぱりやめておこう」と呟くと、ルイは元の姿に戻ってしまった。
その後、ルイが出発の準備をしている間も、ニヴェラはまだ混乱から抜け出せない様子だった。
「さっきの……あれ、何だったんだ?」と、ニヴェラはようやく声を絞り出す。
「ルイがもし女の子として生まれてたら、ああいう姿になってたの。ルナって名前。でも、闇の魔法使いにはルナの姿で会ったことがあるから、あの姿は危険なんだ」とエマは説明した。
「なるほど。つまり――あいつの本体は男か……惜しいな」
ニヴェラのぽつりと漏らした一言に、エマは一瞬ぎょっとした。
(ニヴェラって……女の人が好きなんだ……)
何とも言えない気持ちを胸に抱えながら、エマはひっそりとため息をついた。