130. 天国
夕方、エマとニヴェラはルイと合流し、船内のレストランエリアへ向かった。
魚介料理を売りにした店に入ると、中央の巨大な水槽が天井までそびえ立ち、中をさまざまな種類の魚が悠々と泳いでいる。
ニヴェラの瞳が輝いた。
「……ここは天国か?」
それぞれ魚料理を注文し、三人でゆったりと食事を楽しむ。
「船内でもたくさん魚料理が食べられそうだね」とエマが笑いながら声を掛けた。
「幸せだ……」とニヴェラは顔がほころび、今にも頬が落ちそうだ。
ルイは口元を緩めながら言った。「この船で途中経路のイゼルナまで向かう。数日はのんびりできる」
「イゼルナか……」ニヴェラの表情がふいに引き締まった。
「どんなところなの?」とエマが尋ねる。
「都市全体が階層構造の迷宮になっている。あまり良い評判は聞かないが、そこを通るのが最短ルートだ」とルイが説明する。
「迷路みたいな街か……」
夕食を終えた三人は客室へ戻ろうとしていた。
「ねえ、ニヴェラ。一緒に温泉行ってみようよ!」とエマが提案する。
「おんせん? それはなんだ?」
「え!?」
エマが驚きの声を上げると、ルイが横から口を挟んだ。「オルケードには温泉がないからな。せっかくだ、ゆっくりしてこい」
「そうなんだ……!」エマの目が輝いた。「じゃあ、タオルと着替え持って行こう!」
ニヴェラは不思議そうな顔をしながらも、エマに促され温泉へと向かうことにした。
温泉に到着すると、更衣室でニヴェラの顔が真っ赤になった。
「な、なんでみんな裸なんだ!?」
「お風呂に入るからだよ」
「人前で服を脱ぐのか!?」
「そうだよ」
困惑するニヴェラをよそに、エマは上機嫌でお風呂の準備を始める。
「信じられん……」とニヴェラは小さく呟きながらも、しぶしぶ服を脱ぎ始めた。
船内の大浴場は広々としており、疲労回復風呂、美肌風呂、若返り風呂など、各所にさまざまな魔法が施されている。
「襲撃されたら大変だ……」とニヴェラはタオルを体に巻きつけ、周囲を警戒しながら小声で漏らす。
しばらくすると、ニヴェラはすっかり温泉の虜になっていた。
「天国だ……」と湯船に肩まで浸かり、幸せそうに目を閉じる。
「警戒してたのはどうなったの?」とエマが笑いを堪えながら尋ねた。
「壁や天井にはしっかり防御魔法が施されている。問題ない」
「それ、覗き防止用の魔法じゃないかな?」
「覗き?」
ニヴェラは目を開け、怪訝そうな顔をする。
「気にしなくていいよ」とエマはくすくす笑った。
温かな湯気の中、二人は肩を並べて静かな時間を楽しむ。心地よい湯のぬくもりに包まれ、日々の疲れが溶けていくようだった。