128. 小さな苛立ち
「で、どうするんだ?」
リュミナールの宿の部屋に戻ると、ニヴェラがすぐに問いかけた。
ルイは窓の外に目をやり、しばしの沈黙の後、口を開いた。
「闇の魔法使いとは、いずれまた遭遇するだろう。その時に古代魔法具を奪い返す。それしかない」
その声は静かだったが、確固たる意志がこもっていた。
ニヴェラは腕を組み、しばらく考え込むように眉を寄せたが、エマが先に口を開いた。
「じゃあ、予定通り緑の古代魔法具を目指すってこと?」
ルイは頷いた。
「そうだ。次の目的地はエルドラの迷宮森だ。まずは船で移動する。出航は来週だから、それまで体を休めておけ」
「エルドラか……さすがに距離があるな」
ニヴェラが考え込みながら呟いた。
それから出発までの間、ニヴェラはリュミナールの魚料理を心ゆくまで堪能していた。雲の上の国オルケードでは魚料理が限られているらしく、彼女の顔にはいつも幸せそうな笑みが浮かんでいた。
一方、エマは一度闇の魔法使いに誘拐されたこともあり、常にルイと一緒に行動していた。彼女の視線の先には、インフィナイトの箱に魔法道具をしまい込むルイの姿があった。
その箱は、もともとルイの持ち物だ。旅を始めてからは、二人で共有して使うようになっていた。
箱の中には数え切れないほどの魔法道具が入っているが、旅先で見つけた珍しい品は、彼は必ず購入する癖がある。
そしてこの街でも――。
「また買ったの?」
エマが半ば呆れたように笑うと、ルイは小さな石を掲げて見せた。
「アクア・ステップストーンだ。これを使えば、水の上を歩けるようになる」
「そんなものがあるの?」エマは目を輝かせた。
「リュミナールの特産品さ。何かの役に立つかもしれない。俺の道具は好きに使っていいからな」
「うん、いつもありがとう」
ルイとエマが店の前で会話をしていると、ルイは街の女性に声をかけられた。
「あの……見ない顔ですが、この辺りの方ですか?」
(またか……)とエマは心の中で呟いた。
子供の姿でルイと共に行動するようになってから、ルイは道端でよく頬を赤くした女性に声をかけられるようになった。
(何回逆ナンされれば気が済むんだろう……)
エマはルイを睨みつけた。ルイはいつものように、「旅人です。すみませんが先を急いでるんで」と言って、その場をすぐに去ろうとした。
「ルナの方がマシかもしれない……」
エマが小声で呟くと、ルイは不思議そうに振り返り、「何か言ったか?」と尋ねた。
「なんでもない」
エマは無愛想に答え、再び視線を外した。