127. 最後の希望
翌日――。
ルイ、エマ、そしてニヴェラは再びリヴァース邸を訪れていた。夜の襲撃後、ルイがすぐにルディアンの治療を行い、邸宅の修復作業も魔法で進めていた。
幸いなことに、邸内にいた人々は炎の中で水の防御魔法を展開していたおかげで、全員無事だったという。
「私がもっと気を張っていれば……すまない」
ニヴェラは視線を伏せ、肩を落とした。
「謝らないでくれ。君のせいじゃない」
ルディアンは静かな声で返すが、その顔にはまだ深い悔しさの色が残っている。
「むしろ、ルイくんがいなければ、私は今ここにいないだろう」
治療を受け、傷はすっかり癒えているものの、その言葉には自責の念が滲んでいた。
少し間を置いて、ルディアンは口を開く。
「リヴァース家は代々、水の古代魔法具『アクア・ソルヴィール』を隠し守る使命を果たしてきた。フェルマール家とファルディオン家に頼まれてね……だが、私の代で奪われてしまうとは」
唇をかみしめるルディアンに、ルイはまっすぐな視線を向けた。
「俺たちが必ず取り返します」
その力強い言葉に、ルディアンの表情が一瞬柔らぐ。しかし、すぐに警告の色を帯びた眼差しになる。
「相手は強敵だ。古代魔法具を複数持つ闇の魔法使いたちだぞ。どんな魔法使いでも、そう簡単に敵う相手ではない」
ルイは静かに首を横に振り、言葉を選びながら答えた。
「大丈夫です。いざとなれば――」
ルディアンは鋭い視線で遮った。
「……君は本当に『レクス・ソルヴィール』を持っているのか?」
「もちろんです。それは俺の大切な形見ですから」
ルディアンの目が揺らぎ、少しの間沈黙が続いた。そして、ようやく深い息をつくと、わずかに微笑んだ。
「……どうやら嘘ではないようだね。頼んだよ、ルイくん」
彼の言葉には、最後の希望を託す重みが込められていた。