125. 魚
ルディアンは冷静な表情を保ちながらも、わずかに目を細め、しばし沈黙した。そして、慎重に考えを巡らせた末に口を開く。
「どうしてそう思う?」
「……俺のレクス・ソルヴィールがそう告げている」
その言葉を聞いた瞬間、ルディアンの瞳がかすかに揺れた。驚きを隠し切れず、それでもすぐに平静を装い、表情を整えた。
「なるほど。それで、仮に私のソルヴィールが古代魔法具だとしたら――君はどうする?」
「渡してほしいとは言いません。ただ――必ず守ってください。そして、万が一の時は、俺たちを呼んでください」
ルディアンは薄く微笑むと、肩を軽くすくめた。
「わざわざそれを言いに来たのか?」
「はい」
「闇の魔法使いたちが動いていることは知っている。だが心配には及ばない。この屋敷には私以外にも、腕利きの魔法使いがいる」
ルイは短く頷いた。
「わかりました」
三人は紅茶を飲み終えると、立ち上がりリヴァース邸を去ろうとした――その時、エマが小さな声で呼びかけた。
「あの……」
ルディアンは立ち止まり、振り返る。
「なんだい?」
「もしかして……ノアくんのお父さんですか?」
ルディアンの表情に、ほんの一瞬驚きが走る。
「ノアを知っているのか?」
「あ、はい。マーレディア・アカデミーで一緒にボールパーティに行ったりしました!」
「マーレディア・アカデミーで?……そうか、ノアの友人だったのか」
彼の瞳に柔らかな光が宿り、表情が少し和らいだ。
「その年齢でマーレディア・アカデミーに行ったことがあるなんて、大したものだ。ノアと仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、むしろ私の方が助けてもらってばかりで……。もし帰ってきたら、よろしく伝えておいてください!」
ルディアンは微笑みながら頷いた。
「もちろんだ。ノアが戻ったらまた遊びにおいで」
「はい!」
そうしてルイ、エマ、そしてニヴェラはリヴァース邸を後にした。
「それで、どうするつもりなんだ?」
ニヴェラは魚を頬張りながら、ルイに視線を向けて尋ねた。
「どうもしない」
「全部集めるんじゃないのか?」
「集める。だが、すでに誰かの手にあるものを無理に譲ってもらう必要はない。闇の手に渡らない限りはな。まずは他の古代魔法具を集め終わってからだ。その時に、もう一度会いに行けばいい」
「なるほどな」
ニヴェラは納得したように小さく呟いた。
「物資を調達したら、次の目的地に向かおう」
ルイの言葉に、ニヴェラは一瞬寂しそうな顔をした。
(ニヴェラって、こんな表情もするんだ……もしかして魚料理が本当に好きなのかも?)
彼女の意外な一面を知ったエマの心に、小さな笑みが浮かんだ。