118. ゼピリア族
その後、ルイとエマは魔法のほうきに乗り、ニヴェラの後を追った。
ニヴェラは元の人間の姿に戻っていたが、ほうきを使わず空を滑るように飛んでいる。その優雅な動きに、エマは息を飲んだ。
オルケードの結界を越えたところで、ルイが尋ねた。
「テンペスト・ソルヴィールは、オルケードの外にあるのか?」
「外ではない。オルケードは雲の国。分裂した領域も存在するのだ」
ニヴェラは冷ややかに言葉を返す。
ルイがさらに口を開く前に、ニヴェラは怒りを込めて言い放った。
「それより……まだ納得していない。ところでそのガキは何だ?」
ニヴェラの視線が5歳児の姿に変わったエマを鋭く射抜く。
「あ、私は……その……」
困惑するエマの肩をルイが軽く押さえ、冷静に言った。
「こいつは俺の妹だ。エマだ」
ニヴェラはあからさまに眉をひそめた。
「古代魔法具を集める旅に、そんなガキを連れ歩くなんて正気の沙汰じゃない」
「エマは必要な存在だ」
ルイの声は断固としていた。
「必要だと? 何の理由があって?」
「それは――」
ルイの答えを遮るように、ニヴェラは不満げに首を振った。
(すごく綺麗な人なのに……めちゃくちゃ怖い……)
エマは心の中で小さくつぶやいた。
しばらく飛ぶと、遠くに雲の結界が見えてきた。霧のように白く輝き、その中央に光る何かが浮かんでいる。
「あれか……」とルイが呟いた。
「あれだ。オルケードの守護者にしか見つけられない場所だ。結界に入ってテンペスト・ソルヴィールを取ってくる。お前たちは外で待て」
「わかった」
結界の前でルイとエマが待つ中、ニヴェラは結界をすり抜けるように中へと入り、中央に置かれたテンペスト・ソルヴィールを手に取った。
次の瞬間、彼女はそれを胸元に押し当てた。すると、魔法具が光と共に彼女の体へと吸い込まれていく。
「えっ……!?」
エマは息を呑んだ。
「さすがゼピリア族。隠す方法も洗練されている」
ルイの言葉にエマが振り向く。
「ゼピリア族って?」
「風の魔力を宿す一族だ。普段は普通の姿だが、戦闘時には脚がワシの鉤爪になり、背中に光の翼を展開する。彼らは風そのもの。速度では無敵とされている」
やがて、テンペスト・ソルヴィールを隠したニヴェラが結界を抜け、二人のもとへ戻ってきた。
「テンペスト・ソルヴィールは、私が一時的に預かる。今からソレイナの殿堂へ戻るぞ」
その声は冷徹だが、どこか使命感が宿っていた。ニヴェラは再び空へ舞い上がり、ルイとエマもその後を追ってオルケードへと向かった。