117. 正当な持ち主
「俺たちは、テンペスト・ソルヴィールを探しています」
ルイの言葉に、ニヴェラの眉が鋭く動いた。だが彼は構わず続けた。
「全ての古代魔法具を集め、古代魔法具を巡る争いに終止符を打ちたいと考えています」
ゼファンが「ほう」と興味深げに声を漏らす。
「闇の魔法使いの勢力は、かつてないほど強大化しています。テンペスト・ソルヴィールも狙われる危険があります」
ルイは冷静に告げた。
「テンペスト・ソルヴィールはオルケードで厳重に守られている。余計な心配は無用だ」
ニヴェラは切り捨てるように言い放ち、さらに追及する。
「それに、古代魔法具を集めてどうするつもりだ?」
ルイの言葉が一瞬詰まる。
「……最後にどうするかは、まだ決めかねています」
「何だと! 悪用しない保証がどこにある!?」
ニヴェラの声が怒りに震える。
ゼファンは手を上げ、静かに場を制した。
「ルイくん、君はすでにいくつかの古代魔法具を所持しているのですか?」
「はい。氷の古代魔法具『フロスト・ソルヴィール』と火の古代魔法具『フレア・ソルヴィール』、それから……父から譲り受けた『レクス・ソルヴィール』を」
ルイの口調は静かだが、その言葉の重みが部屋を満たす。
ゼファンとニヴェラの表情に驚きが走る。
「古代魔法具を三つも携えながら、その力に飲み込まれることなく旅を続けているとは……見事な魔力の制御です。さすがですね」
ゼファンの声には敬意がこもっていた。
彼は一呼吸置いて言った。
「よろしい。テンペスト・ソルヴィールのある場所を教えましょう」
「しかし――!」
ニヴェラが口を挟むが、ゼファンは彼女の反論を遮る。
「ただし、ニヴェラ、君が案内しなさい。テンペスト・ソルヴィールは、オルケードの守護者しか開けない結界で守られている」
「どうして……!」
ニヴェラの声には困惑と憤りが交じる。
「テンペスト・ソルヴィールは、我々が何百年もこの地で守り続けてきた物です。それを――!」
ゼファンはその視線を穏やかに受け止め、静かに告げた。
「ニヴェラ、この若者こそがテンペスト・ソルヴィールの真の継承者なのだよ」
「な、何ですって……?」
ニヴェラの瞳が揺れる。
ゼファンは頷きながらルイに目を向けた。
「フェルマール家の血を引く君こそが、正当な持ち主だ」
ルイは短く息を吐く。
「持ち主かどうかは分かりません。でも、俺なら制御できます」
ゼファンは微笑み、目を細めた。
「そうでしょうね。フェルマール家の後継がまだ生きているとは……いつかこの日が来ると思っていたが、こうして現れるとは驚きだ」
「ルイくん、テンペスト・ソルヴィールを手に入れたら、もう一度ここに戻ってきてください。そして――」
彼はニヴェラに向き直った。
「納得がいかないなら、お前がその目で見届けるといい。テンペスト・ソルヴィールを持つのはお前の役目だ」
ニヴェラの目が揺れながらも、覚悟が宿る。
「……分かりました。しかし、私は見逃しません。少しでも怪しげなことをすれば……」
「それでいい。だからこそ、君に任せるのだよ」
ゼファンは満足げに笑った。