116. ゼファン・カリスト
神聖なローブに身を包んだ女性が、膨大な魔力で空気を震わせ、背中の大きな翼を一振りすると、鋭い風の刃がエマとルイに襲いかかった。
ルイは一瞬の隙もなく反応し、防御魔法を展開。風の刃は目に見えないバリアにぶつかり、砕け散る。
「どうして……!」
エマはその圧倒的な力に言葉を失いながらも後退した。
女性は攻撃を止める気配も見せず、冷たく目を細めた。
「ダメか。ならば……」
そう呟くと、彼女は両手を天に掲げ、呪文を唱え始めた。
「デヴァストス」
その瞬間、彼女の背後に巨大な女神の姿をした精霊が現れ、その手のひらから放たれる光が眩いばかりに輝く。次の瞬間、光の槍が轟音とともに二人へと迫る。
「アエギス・インペルヴィウム!」
ルイはすかさず新たな呪文を詠唱し、巨大な魔法障壁を生み出した。光の槍が障壁に激突し、強烈な衝撃波が部屋中に響き渡る。
「俺たちは話をしに来ただけだ! 戦う気はない!」とルイは叫びながら、なおも魔法を維持し続けた。
しかし、女性は冷たく言い放つ。
「テンペスト・ソルヴィールを狙う者はすべて敵――容赦はしない!」
さらに魔力を高めようとする彼女。しかしそのとき――。
「おやめなさい、ニヴェラ!」
重々しい声が部屋に響いた。
奥の扉から現れたのは、神聖なローブをまとった初老の男性。落ち着いた威厳のある佇まいが、空気を一変させる。
「……ゼファン様」
ニヴェラの手が止まり、だがなおも警戒の色を浮かべたまま、唇を噛む。
「しかし、この者たちはテンペスト・ソルヴィールを狙っています」
「違う。彼らは私の招待でこの国に入国した客人だ。攻撃はおやめなさい」
女性はためらいののち、翼をたたみ、光の気配を消した。
ゼファンはルイとエマに向き直り、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「娘が失礼をした。よくいらっしゃいました、オルケードへ」
「あなたがゼファン・カリストさんですね?」
ルイの問いに、彼はうなずいた。
「ええ、そうですよ」