113. 国立図書館
しばらく歩き続けると、遠くの空にそびえる巨大な建造物が見えてきた。
それは雲の中から現れた女神の姿をかたどった建物だった。両手を広げて天を支えるようなポーズの女神像が、オルケードの空を見守るかのように佇んでいる。
「うわ……あれ、すごく大きい!」
エマは目を見開き、歩みを止めた。
「なんか神様みたいだね……あれ、何?」
「この国の守護者たちがいる場所だ」
「守護者?」
「そうだ。この国が雲の上に浮かんでいられるのも、守護者たちの魔法で空と風を操っているからだ」
ルイは目を細め、女神像を見上げながら説明する。
「彼らが結界を張り、地上の災厄からこの国を守っている。あの女神像は、その象徴だ」
エマはしばらくその話をかみしめ、目の前に広がる魔法の国の秘密に思いを巡らせた。
「すごい人たちなんだね……本当に、空の上に国を作っちゃうなんて」
ルイは口元に微かな笑みを浮かべると、前方を指差した。
「ほら、あれが国立図書館だ」
目の前にそびえる建物は、まるで雲と光で形作られた巨大なドームのようだった。外壁には風を操る精霊の彫刻がほどこされ、門には無数の魔法文字が刻まれている。薄い霧のような光の膜が建物全体を包み込み、不思議な雰囲気を漂わせていた。
「ここだ」
ルイが一言告げると、二人はその壮麗な扉の前に立った。
「入るぞ」
ルイの言葉に、エマは頷いて足を踏み出す。
扉が静かに開き、二人は神秘と知識が詰まった空間へと歩みを進めた。
図書館の扉を押し開けると、エマは息を呑んだ。
天井まで届く巨大な本棚が雲のように浮かび、棚の間を滑空する光の精霊が本を運んでいる。棚の端々からは魔法の文字が舞い上がり、宙で踊るように弧を描いて消えていく。
「わあ……これ全部、魔法の本?」
エマは目を輝かせながら近くの本を手に取った。革表紙には古代文字が刻まれており、触れると温かい光が指先を包み込んだ。
「どうだ?」
「すごい! 見たことない本ばっかり……」
ルイは小さく微笑むと、すぐに表情を引き締めた。
「俺は古代魔法具に関する文献を探す。おそらく特別保管室にあるはずだ」
彼は奥の巨大な扉を見つけ、向かっていった。その扉には無数の歯車が埋め込まれ、銀と青の魔力が静かに脈打っていた。
ルイが手を翳し、魔力を注ぐ。カチリ、カチリと音を立てて歯車が動き出し、魔法の紋様が次々と光を放つ。扉全体が脈打つように息を吹き返し、周囲に青白い波紋が広がった。
「よし……」
ルイがつぶやき、光の膜が消えた扉を押し開く。エマも後に続こうとした――
ぎしっ
薄い光の壁が現れ、エマを跳ね返す。
「な、なにこれ?」
「どうやら特定の魔力を持つ魔法使いしか入れない仕掛けだな」
「そうなんだ……残念……」
エマはしょんぼりと肩を落とした。
「あとで教えてやる。先に図書館を自由に見て回っておけ」
「うん……わかった」
ルイは扉の向こうに消え、エマは一人、図書館の広い空間を見渡した。