112. オルケード
翌朝、ルイとエマはオルケードの国立図書館へと向かった。
ルイの怪我はすっかり治り、エマは初めて見る雲の上の国の散策に心を躍らせていた。
宿の扉を開けて外に出ると、彼女の目に飛び込んできたのは、絵本のように広がる幻想の風景だった。
「わあ……!」
辺り一面に雲が広がり、その上に整えられた歩道がふわりと漂う。雲でできた塔のような建物が点在し、虹で編まれた橋が空中をまたいでいる。淡い光がどこからともなく差し込み、街全体が神秘的な輝きに包まれていた。
エマは思わず立ち止まり、足元の雲をそっと触れた。
「ぷにぷに……!」
指先が弾む感触に驚き、次は恐る恐る足を乗せる。
「この雲の上、踏んでも本当に落ちないの?」
「大丈夫だ」
ルイは短く答えると、先に歩き出した。
エマはもう一度足を押しつけ、今度は大胆に跳ねてみた。雲の感触はふかふかのクッションそのもので、優しく受け止めてくれる。
「わあ、これ楽しい!」
エマは思わずぴょんぴょんと跳ね回り、ルイに駆け寄った。
「図書館に向かうぞ」
「はーい!」
元気よく返事をし、二人は肩を並べて歩き始める。
少し歩いたところで、ルイがふと立ち止まった。
「肩車でもするか?」
「えっ!? ……べ、別にいいよ!」
エマは顔を赤らめて首を振るが、ルイはお構いなしに彼女をひょいっと肩の上に乗せた。
「わ、わわっ!」
一瞬の驚きの後、エマは高い視点から見渡せる景色に目を輝かせた。
「すごい! こんなに遠くまで見えるんだね!」
「楽しそうだな」
ルイの口元に笑みが浮かぶ。
エマはふいに真剣な表情になり、口を開いた。
「ねえ、ルイ。ちょっと聞きたかったんだけど……」
「どうした?」
「旅のお金……ずっとルイに払ってもらってたけど、これまでどれくらい使ったの?」
ルイは肩越しにちらりとエマを見上げた。
「気にするな。エマの実家に何年も世話になったお礼だ。それに、俺には莫大な遺産がある」
「そ、そっか……ありがとう……」
エマは心の中でこれまでの旅を振り返り、少し身震いした。