111. 行方
しばらくして、ルイは「夕飯の食材を買ってくる」と言い残し、宿を出ていった。
エマは小さな体でベッドの上を転げ回りながら、クローキャットのクロと遊んでいた。クロの毛はふわふわで、時折じゃれつくように前足でエマの手を叩いてくる。
「あはは、クロ、くすぐったい!」
そんなひとときが続き、窓の外が赤く染まり始めた頃――
「ただいま」
ルイが部屋に戻ってきた。手には食材を詰めた籠と、もう一つ紙袋を抱えている。
「これを着ておけ」
ルイは紙袋をエマに手渡した。
エマは不思議そうに袋を開き、中をのぞき込む。そこには、ふかふかの子供用ローブと服が畳まれていた。滑らかな布地に織り込まれた魔法の波動が微かに感じられる。
「これ、もしかして……」
エマが服を持ち上げると、ほんのりと光る魔法文字が縫い目に浮かび上がった。
「防御魔法が施されてる服だ。この姿の間は、それを着ていろ」
「……これ、子供用のすっごく高級なやつじゃない?」
エマは値段を想像するだけで震え上がりそうになった。
「気にするな」
ルイの言葉はあくまで淡々としているが、どこか有無を言わせない響きを帯びている。
「でも……」
「必要なことだ」
その一言に、エマは言い返すのをやめた。
「ありがとう……」
ローブを抱きしめながら、小さな声でつぶやいた。
すぐにエマは服を着替え始めた。子供用とはいえ、さすがに体型に合ったものは快適だ。ローブを羽織ると、身を包む魔力の暖かさにほっとする。
「うん……ぴったり!」
エマはぴょんとベッドの上で跳ね、クロが驚いて飛びのいた。
「よく似合ってる」
ルイはふっと微笑み、短く頷いた。
エマはふかふかのベッドの上でクロを抱きしめながら、ふと気になっていた疑問を口にした。
「ねえ、ルイ。それで、古代魔法具はどのあたりにありそうなの?」
「……それが、わからないんだ」
エマは耳を疑ったように目を丸くする。
「えっ?」
「オルケードに入れば、レクス・ソルヴィールが反応して場所を示してくれるはずだと思っていた。だが……反応しない」
「それって……もしかして、もうないってこと?」
エマの心臓がどきりと跳ねる。
「いや、それはまだ断言できない」
ルイは顔を険しくしながら首を横に振った。
「問題は場所だ。この国は雲と風で地形が複雑に変化する。上手く隠されているのかもしれない」
「じゃあ、どうするの?」
「まずは国立図書館だ。そこにある古代魔法具の文献を探す」
「図書館なら任せて! 一緒に絶対手がかりを見つけよう!」
ルイの目が一瞬柔らかくなり、彼女に短い頷きを返す。