11. 新たな不安
「ねえ、そういえば知ってる? 今年の新入生に人間が混じってるんだって!」
ソフィアが突然そんな話を持ち出した。
「え? そうなんだ」
エマは平静を装いながらも心臓が跳ねるのを感じた。自分のことを指しているのではないかと一瞬不安になったが、ソフィアは続けた。
「ええ。私の兄もアルカナ魔法学校の学生なんだけど、教授が言ってたらしいわ」
「人間の学生って、やっぱり珍しいの?」
エマが尋ねると、ソフィアは目を丸くして答えた。
「あたりまえじゃない! アルカナ魔法学校は、魔法界で最も歴史のある名門校。魔法界で数々の著名人を輩出してきた学校よ? 人間の学生なんて、おそらく初めてじゃないかしら」
「そうなんだ……」
エマは気づかれないように視線を逸らした。自分が人間であることを知られるのは時間の問題かもしれないと感じたが、同時に、ソフィアがそのことに興味津々で話している様子に、少し安心した。敵意や偏見を持っているようではなかったからだ。
エマが列車の窓から外を見ていると、外の景色が再び霧に包まれ始めた。その揺らめく白い世界を眺めていると、エマはふと歴史書に記されていた一節を思い出した。
(約800年前、古代魔法を駆使して人間界を支配したとされる「カルディア一族」。彼らは、魔法使いが人間の上に立つべきだと主張し、世界を戦火に包んだ。そして、その暴走を止めたのがファルディオン家……。)
エマは静かに息を吸い込み、列車の音に耳を傾けた。
(私がここで何を成し遂げられるのか、まだ分からない。でも、きっと――。)
窓の外に広がる光景は霧の向こうで徐々に明るくなり、アルカナ魔法学校のシルエットが姿を現し始めた。