表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/207

109. 乱暴な回復魔法

 しばらくして、エマはゆっくりと意識を取り戻した。頭の中でぼんやりと霧が晴れていくような感覚。奇妙なほど体が軽く、激しい痛みはどこかへ消え去っていた。


 かすかな温もりと柔らかな感触――それに気づき、エマは目を開けた。


 目の前にはルイの顔があり、彼の唇が自分の唇に触れている。


「……!」


 驚きに息をのみ、体がこわばる。しかし、ルイの唇は優しく離れていき、その瞳が安心させるようにエマを見つめた。


「目が覚めたか?」


 ルイの声は落ち着いていたが、その額には汗が滲み、こめかみから血が流れていた。


「もう痛くないだろう?」

「う、うん……でも、ルイ……血が出てる……!」


 エマは手を伸ばし、彼の傷に触れようとしたが、ルイは軽く首を振った。


「大したことない。これくらい、すぐに治る」


 彼の口元に浮かぶ微笑みは、確かな自信に満ちている。


「ルイ、それって……もしかして……」


 エマの言葉は震えていた。


「エマの傷を俺に移した。少し乱暴な回復魔法だが、即効性がある」


 唇を介して相手の傷を吸い取る回復魔法――その事実に、エマの胸の奥がじわりと熱くなった。


「ありがとう、ルイ……でも無理しないで。お願いだから……」


 ルイはエマの額にそっと手を置いた。


「大丈夫だ。エマを守るのが、俺の役目だ」


 言葉の一つひとつが、心に深く染み渡る。


 エマは不意に周囲を見回した。木目の温もりを感じさせる壁、古びたが整った家具――宿のような場所だ。


「ここ……どこ?」

「雲の上に浮かぶ国、オルケードだ」


 ルイは窓の外を指差した。見下ろすと、島の彼方に青空が広がり、遠くには輝く雲海が続いていた。


「エマが囚われていた島のすぐ上を飛んでいたんだ。本当に運が良かった」


 彼の言葉には安堵の色が混じっていた。


 エマはその風景を目にしても、まだ半信半疑だった。


「空を……飛ぶ国?」

「そうだ。ここならしばらく安全だろう」


 その言葉に、エマの心に初めて本当の平穏が訪れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ