107. 洞窟
エマが姿を消してから、ルイはアーク・カレッジの自室で一瞬だけ沈黙に包まれていた。だが、胸の奥から何かが引き裂かれるような感覚が彼を貫く。
「エマ……?」
声が震える。次の瞬間、魔力の波動が消えたことを確信し、眉をひそめた。
「ここにいない――消えた?」
床に手をつき、ルイは魔法陣を一瞬で描き出す。青白い光が閃き、彼の体が瞬時に別の場所へと消えた。
ワープで移動した先は、エマが最後に姿を見せた中庭だった。かすかな残り香のように、彼女の魔力の痕跡が漂っている。
「ついさっきまでここにいたはず……」
目を細めて辺りを見回していると、黒い影が視界に飛び込んできた。クロだった。
「クロ?」
エマのペットのクローキャットは、しがみつくようにルイの胸元に飛び込み、必死に鳴きながらその小さな前足で何かを訴えるように掻いた。
ルイは真剣な表情になり、そっとクロの頭をなでた後、目を閉じて魔力を集中させた。ソルヴィールがかすかな光を放ち、魔力の残滓を辿る。
「近くにはいない……でも……」
空気のわずかな乱れが遠くへ向かって伸びていることに気づき、ルイは杖を一振りすると、魔法のほうきが目の前に現れた。
「クロ、行くぞ」
ほうきに飛び乗り、空へと舞い上がる。そのとき、ポケットから彼の魔法精霊が姿を現し、淡い輝きを放ちながらルイの前方に浮かんだ。
「エマの正確な位置を探れ」
精霊は空中で一回転し、ルイのわずか前を導くように飛び始めた。
夜の冷たい風を切りながら飛び続けると、視界の下で何かが動いた。それは風を切り裂く大きな影――ウィンドフェルドでエマが手懐けたドラゴンだった。
ドラゴンは翼を広げ、空中でルイの前に立ちふさがるようにして見つめた。
「乗れということか……」
ルイがつぶやくと、ドラゴンは深いまなざしで彼を見返し、ゆっくりと体を傾けて背中を差し出した。
ルイはためらうことなく乗り込み、静かに決意を込めて言った。
「急ぐぞ。エマの身に何かが――間違いない」
ドラゴンは咆哮を上げ、夜空を切り裂く勢いで加速した。
やがて見えてきたのは、黒い霧に覆われた孤立した小島だった。岩だらけの荒れ地には何の目印もないが、海に面した場所にぽっかりと口を開けた洞窟が一つだけある。
「……あそこだな」
ルイは目を細め、低く呪文を唱え始めた。その姿がみるみる変化し、気高い黒髪の女性――ルナの姿を取る。
「準備はできた……」
ドラゴンの背から飛び降りると、ルイのポケットに仕舞われた魔法精霊の輝きも消え、静かにクリスタルへと戻った。