105. ノスヴァルド
しばらくして、エマはようやく体を動かせるようになった。長い間、麻痺させられていた体がようやく反応を始め、眠りから覚めたように感じた。しかし、すぐにその感覚は恐怖に変わった。
左足にかけられた足枷が重く、動かすたびに鋼鉄の冷たい感触が伝わる。その足枷は鉄柵の檻に繋がれていて、逃げることもできないことに気づいた。
呪文を唱えようとしたが、何も起きない。魔法が効かない。それどころか、首元のソルヴィールが外されていることに気づいた。慌てて周囲を見回すと、檻の入り口近くにエマのソルヴィールが置かれていた。しかし、足枷のせいで届かない。
その時、足音が近づいてきた。低く、冷徹な音が響き、やがて足音はエマの目の前で止まった。
「やあ、また会ったねぇ」
その声にエマは思わず息を呑んだ。黒いローブに身を包み、不気味な笑みを浮かべるその人物の顔に見覚えはなかった。しかし、その目つきはどこか異様で、まるで何かを企んでいるようだった。
「この前会った時は、私はヴァルディアの国王だったねえ。あの体は気に入っていたのにねえ」
その瞬間、エマは全身に寒気が走った。彼の言葉を聞いた瞬間、全てを理解した。目の前の男は、あのノスヴァルドだった。そして、再び新しい体を手に入れていた。
「君のソルヴィール、珍しい色だねえ。それに、何やら厄介な防御魔法が施されてるねえ。外してみたんだけど、なぜか触れないんだあ。どうしてかなあ? あのルナって女の仕業かなあ?」
ノスヴァルドの笑みは、さらに歪んでいた。彼の目には冷徹な計算が浮かんでおり、その言葉に込められた意図は明らかだった。
「君の力は私たちの計画に必要だ。でもその前に、ルナって女をここに連れてきてくれないかなあ? 返してほしいんだよねえ、フレア・ソルヴィール。フロスト・ソルヴィールも持ってるのかなあ? ほしいなあ」
彼の言葉は続くが、エマはそれを聞いてもただ茫然としているしかなかった。フレア・ソルヴィールとフロスト・ソルヴィール……ノスヴァルドはそれらを手に入れるため、次々と計画を巡らせていることが感じ取れた。
エマはその冷徹な視線を避けようとしたが、体が動かない。足枷の重さ、身体の自由を奪われた現実が、彼女をさらに無力にさせていた。