1. ルイとの出会い
「マックス、待って~!」
イギリスのロンドンで暮らす3歳の女の子エマ・ブラウン。今日は、両親の友人であるキャンベル夫妻のサマーハウスに招待され、オーストリアの中南部に位置するシュタイアーマルク地方に遊びに来ている。
エマの父親トーマスと母親エミリーはキャンベル夫妻とサマーハウスのバルコニーでティータイムを楽しむ中、エマはキャンベル夫妻の愛犬であるボーダーコリーのマックスと庭で遊んでいる。
庭と言っても、ここはとても自然豊かな土地で、家の目の前には大きな湖があり、周りには草原が広がっている。家の裏には山々の素晴らしい景色。ご近所さんが放し飼いしている牛もいる。
マックスも、ここではリード無しで走り回ることができ、エマと楽しく遊んでいるようだ。
しばらくすると、マックスが遠くを見つめて耳をピクピク動かし、そのまま急に走り去っていってしまった。
「――どこに行くの? まってよ〜!」
マックスはとても賢い犬で、普段であれば飼い主の側から勝手に離れていくことはしない。追いかけっこの続きかなあと思いながら、エマはマックスの後を必死に追いかけていった。
草原の中にポツンポツンと建つ家を通り過ぎ、山の方へと入っていった後、マックスはようやく立ち止まった。
「マックス……! お家の近くで遊ばなきゃいけないんだよ……!」
息を切らせながらエマがマックスの方に話しかけると、目の前には自分より少し背の高い男の子が立っていた。
「何してるの? 一人?」
「……」
エマが話しかけても、その少年はただ呆然と立ったままでいた。よく見ると、少年の服は汚れていて、その後もエマは話しかけたが返事は無い。
「あっちにお友達のお家があるから、一緒にいこ」
エマは、少年の手を取り、マックスと一緒にサマーハウスの方へと戻って行くことにした。
サマーハウスに戻ると、エマの両親とキャンベル夫妻が慌てた様子でエマ達の方へと駆け寄ってきた。
「エマ! 無事でよかった……!」
エミリーは泣きそうになりながらエマへと話しかけ、エマがケガをしていないか体中をチェックした後、エマをギュッと抱きしめた。
トーマスは、隣にいる少年を不思議そうに見つめた。
「エマ、この子は?」
「わかんない、たぶん迷子」
「ひどく汚れてるじゃないか。キャンベルさん、一旦この子を客室に連れて行ってもいいかな?」
「もちろん。自由に使ってくれ」
エマの両親が少年を客室へと案内し、飲み物や、エマの大きめの服を少年に差し出した。
「とりあえず着替えるかい? シャワーを浴びてもいいよ。何か欲しいものがあれば言ってね」
「……ありがとうございます」
トーマスが優しく話しかけると、少年はようやく口を開いた。
「名前は何て言うんだい?」
「……ルイです」
「ルイか。カッコいい名前だね。お父さんとお母さんは?」
「……いません。一人です」
「そうか、わかった。じゃあ、とりあえず今日はここでゆっくり休もうか」
「……はい、ありがとうございます」
ルイと名乗る少年の身に何があったのだろうか。ルイがあまり話したくない様子だったので、トーマスは、今日はこれ以上何も聞かないことにした。
エマは少し離れたところから、ただルイを見つめていた。ルイとの出会いが、彼女の人生を大きく変えるとは知らずに。
本作を読んでいただきありがとうございます!
第二章の後半から、物語の核心に迫る展開が待っていますので、ぜひそこまでお楽しみいただけたら嬉しいです!
精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!