第18話 姫は部活あれと言われた
「パメラが新聞の絵を描く気なら、ワタクシはそれでも一向に構いませんわ!」
ワタクシはニヤリと笑って声を上げる。
自分の計画通りに事が運んでいる喜びとともに。
「校内新聞を発行するんでしょう? なら、ワタクシもそれに一枚噛ませて頂きますわ!」
「えぇッ?」
そう、別にパメラが絵を描く気になってくれさえすればそれでいいのだ。
エロゲ計画の初期段階の要は絵と文字が共存するメディアを学園に流布すること。
それは絵本だろうと新聞だろうと構わない。
文字の読めない者の興味を引けさえすれば!
文字の読めない者を文字が読めるようにする一番の手段は、とにかく文字に触れさせることだからだ。
つまり、絵で釣って文字を読ませる!
子供が漫画で言葉を覚えるのも然り。
ラノベがジャケ買いされるのも然り。
名著の表紙を漫画絵にするのも然り。
どんな知的レベルの者に対しても、絵は絶対的な力で文字を読む切っ掛けを生み出す。
このフリーデンハイム学園で絵付きの文字媒体が流行れば、卒業生はその文化を自種族に持ち帰る。
それはあらゆる種族の飛躍的な識字率の向上をもたらすに違いない。
そして、それこそこの世界でエロゲが受け入れられる土壌を生む第一歩なのだ!
「魔導輪転機なるものが来ることは知ってるわ。でも新聞には紙もインクも必要でしょう? つまりお金が。フラウ・エルネストもパトロンは大歓迎ではなくて?」
「で、でもつい昨日は世界征服が幼稚だなんだって言ってたじゃないか、ツェツィ!?」
当然、ワタクシの心変わりにパメラは驚いている。
「言ったでしょう? ぶっ飛ばされて目が覚めたと。それともお詫びだなんだと言っておきながら、ワタクシを目覚めさせた責任は取ってくれないのかしら?」
「うぅ……、いや、ツェツィとまた一緒に何かできるのはすごく嬉しいけどさ……」
貸しをチラつかせると、思った通り、クソ真面目なパメラは弱ったところを見せてくれる。
あぁ……なんてカワイイ。
やっぱりいじめ甲斐がある──。
──おっといけない、これは淑女のやり口ではなかった。
優雅に風雅に粛々と、成すべきことを為してまいりましょう。
「それじゃあ早速、創部申請の準備をするわよ。フリーデンハイム学園新聞部のね」
「部活にしちゃうの!?」
「当たり前でしょう? 権威の後ろ盾の無い新聞なんて紙屑、怪文書、風説の流布以外の何物でもありませんわ」
「でも部活には四人以上要るんじゃ? ツェツィと私とリオじゃ三人──」
「安心なさい、ジゼルとはもうとっくに話が付いているわ」
「で、でも顧問の先生が……」
「それも顧問の部活が無くて、かつ、怪我人がいなくていつも暇してる穀潰しを一人知ってますわ」
「あっ、ソイツは私も知ってるかも……」
「だから部室はソイツの根城の納屋を使えばいいわね――」
「──すぐそこだし下見に行きますわよ」
「ツェ、ツェツィ、今仮にも授業中だよ?」
「貴女だってワタクシの紙飛行機を見てフケて来たくせに今更日和りますの?」
「だ、だって、学園公認で絵を見せるなんて恥ずかしいし、アイツが顧問ってのもさあ」
「フラウ・エルネストの為でしょ? 覚悟を決めなさい。ほら、行くわよ」
「えぇー、やだー!!」
普段の冷静な蒼玉の才媛の姿はどこへやら、パメラはワタクシの前では素の甘えん坊に戻っていた。
駄々をこねるパメラの手を引き、学園聖堂横の納屋を見ようと出口を目指す。
「素が出てるわよ。引きこもりからクール系に学園デビューしたんでしょ?」
「別にしてないって。普段は気を張ってるだけ。今はツェツィしかいないんだしいいじゃんっ」
そうパメラがぶうたれると丁度ワタクシたちの目の前で玄関の大扉が開き、聖堂の主が現れた。
「おや? キミたちがそんなに仲良さそうにしているのを見るのは何年ぶりかな?」
空飛ぶ幼女が手を繋ぐワタクシたちの様子を見て嬉しそうに微笑む。
ワタクシもお目当てのソイツを見つけて嬉しそうに微笑む。
パメラはソイツの顔を見て嫌そうに微笑む。
「え、何その顔? ボク何か変なこと言った?」
「いえいえ、先生に出会えた喜びの笑顔ですわ。ね、パメラ?」
「……はい、喜びの笑顔です……」
どこか投げやりな口調でパメラがワタクシに合わせる。
「ワタクシたち先生にお願いがありますの」
「うん、何かすごく嫌な予感がするんだけど」
「それは杞憂ですわ、なにせワタクシたちには生産的な未来が待っているのだから」
ワタクシは宙に浮く子供の姿のエンジェルに向かって命令する。
「ラファエル先生、ワタクシたちと一緒に新聞を作りなさい!」