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死に戻り悪役令嬢に(自称)お兄様ができました  作者: 桜 みゆき
序章

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「わっ……」


 回転扉を慎重に閉めたあと、階段に足を下ろす。

 すると、先程まで真っ暗だった空間にぱっと光が灯った。


「これ、魔法だわ……」


 扉が閉まり階段に人が入った瞬間に、魔法が発動するようになっているようだ。

 誰かが手入れをしているとも思えないこの場所で動き続けるそれは、おそろしく高度な魔法理論が組み込まれていると、エルミアーナにもわかる。

 一体誰が何の目的で、と少し背筋が寒くなるが、今は確かめる術もない。おそらく自殺した妾の噂も、この場所の存在を隠すためだろうと考えれば、いつから存在するのかも不明だ。


 何より、今大事なのは過去に思いを馳せることではない。


 エルミアーナは頭上を点々と浮かぶ、魔法で生成された照明代わりの光球を横目に見ながら、階段を降りる。

 石造りのそれにヒールが当たって、コツンコツンと音が反響した。

 案外短い距離しかなかった階段を降りた先には一枚の扉がある。


「ここね」


 エルミアーナは扉のノブを握り、捻る。

 鍵がかかっている可能性も考えていたが、そんな抵抗もなく扉はあっさりと開いた。少し隙間を開いて中を覗き込むが、部屋の中は暗く何も見えない。

 階段と同じシステムと見るのが妥当だろう。

 エルミアーナは覗き見るのを諦めて、扉を開いた。

 一歩足を踏み入れれば、案の定部屋が明るくなる。

 そしてそこには、記憶の中のイメージ通りの――だが本来の時系列ならば無いはずのものがあった。


「魔界へ繋がる、魔法陣」


 特定の地点から地点を一瞬で移動できる転移魔法陣。それは国から使用を厳しく制限され、王族などの限られた人物が限られた要件でなければ使用できないものだ。

 そのため、一般にはその図案は秘匿されており、描くことができるのもほんの一握り。特に距離が長くなったり、転移地点が特殊な環境下にあれば、その魔法陣はより複雑なものとなり、使用時に消費する魔力も桁違いとなる。


 エルミアーナも本物を見たことがあるわけではない。

 だが、これは転移魔法陣の中でも最も図案の作成を含め使用が困難を極める魔界へ通ずるものだと確信していた。

 この地下室は、本来秘匿されている転移魔法陣をはじめとした禁術を扱う書物が、国に無断で集められている場所。

 過去にリーゼンベルクの当主が集め、その存在を誰にも知られぬまま今に伝わってしまったもの。それを原作のエルミアーナは偶然か必然か見つけてしまったのだ。


 原作のエルミアーナは、この禁書庫で魔界に通じる魔法陣の描き方を知った。

 そしてそれを、婚約者とそれを奪ったヒロインへの復讐のために使ったのだ。


「どうして、もう魔法陣が描かれているのかしら……」


 魔法陣をこの場所に描いた原作のエルミアーナは、魔界へと飛ぼうとした。

 だが、それは魔界――本当は今エルミアーナがいる大陸とは別の大陸――を取り囲む磁場の狂った領域によって、失敗した。

 しかし、身体ごとは飛べずとも、声は届いた。

 そして――、それに呼応した魔族がいたのだ。


 フェリクスと邂逅した帰り道に見た夢。

 あれは、原作の通りに事が進んだ先のエルミアーナ・フォン・リーゼンベルクの成れの果てだ。

 恋に狂った憐れな女は、婚約者を手に入れ、ヒロインを殺すために魔族と手を結んだ。人であることをやめ、その魔族に服従する使い魔となって――、それによって強大な力を手に入れ、ヒロインたちの前に立ち塞がる。

 そんな筋立てだ。


 だがエルミアーナは、一度目の人生でその過程を辿る前に処刑された。

 物語の流れを辿った悪役令嬢が、将来大きな力を手にして戻ってくる――。そんな原作の流れを知っていたのではないか。

 それこそが、あの聖女が転生者なのではと疑っている最大の理由だった。


 それを防ぐかのように処刑され、二度目の人生を送る今も、はじめてこの場所に足を踏み入れている。

 本来なら、魔法陣があるはずもない。


 エルミアーナは魔法陣のそばに膝をついた。

 そしてその魔法陣に、エルミアーナはそっと手を触れさせる。


「…………お兄様」


 微かな心当たりに呼び掛けてみる。

 だが、魔法陣は返答などしない。


「――……」


 エルミアーナは無言のまま立ち上がって、本来の目的である禁書の方へ歩いていった。

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