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死に戻り悪役令嬢に(自称)お兄様ができました  作者: 桜 みゆき
序章

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14

「ん~……」


 朝、ベッドから起き上がったエルミアーナは大きく伸びをする。


「おはようございます、お嬢様」


 タイミングよくラナが現れて身支度をはじめたのを、ぼんやりと見つめながらほんの少しだけ落胆する自分に気付く。


「……ええ、おはよう」


 今日も変わらず闖入者はいない。


 そのことをいちいち確かめては、苦笑をもらす。


「少し暑くなってきたわね」

「そうですね。今日は薄手のドレスを用意いたしましょう」


 春が過ぎて夏が来ようとしている。


 季節がめぐる。

 ()がいなくなってから、早一月が経とうとしていた。




「ねえ、ラナ」


 ダイニングへと移動したあと一人きりの食事を終えたエルミアーナは、食後の茶を啜りながら給仕をしていたラナに声をかけた。


「はい、お嬢様」


 エルミアーナは念のため、辺りに他の人間がいないのを確認してから口を開く。


「この屋敷に地下室、ってあるのかしら」

「使用人区画に貯蔵室などがありますね」


 エルミアーナも承知している答えに一つ頷きを返す。


「それ以外は?」

「……つまり、お嬢様方がいらっしゃる区画で、ということでしょうか?」

「そうね。隠し部屋とか……、噂でもいいわ。何か知らないかしら」

「申し訳ありませんが、存じません」

「……そう」

「ああ、でも一つだけ」


 続くラナの言葉にエルミアーナは顔を上げる。


「以前、北の奥にある部屋の付近で、若様を見失ったことがあります」

「え……? あの部屋は今使っていないわよね……」


 件の場所は、大昔に正妻から冷遇されていた妾が自死した部屋だとかいう理由で、使われなくなって久しい。

 部屋自体の日当たりも悪い上、近くにはあの部屋しかなく、もう誰も近付かない場所だ。


「それに、消えたってこと? あそこはどこにも抜けられないでしょう」

「はい。わたしは掃除をしに行ったのですが、それより先に部屋の方へ向かったのをお見かけして、そのあと見失いました」

「……不思議ね」


 エルミアーナはふぅと息をついて気持ちを切り替える。それから、残っていた茶を目一杯楽しんだあと、北奥の部屋へと向かった。




 原作の中で、エルミアーナ・フォン・リーゼンベルクが登場する場面は意外に多い。

 その中の一つで、彼女が地下室で「とあること」をするシーンが存在した。


「……ここね」


 北奥の部屋を前にエルミアーナは呟く。

 こんな場所まで来たのは本当に幼い頃くらいなもので、「近寄ってはいけません」という大人の言葉を素直に聞いて、こんなにも近くまで来たのは初めてだった。


 たしか――『壁を押し開くと、地下への暗い通路が口を開けた』と書かれていたわ……。


 原作にて、エルミアーナ・フォン・リーゼンベルクが地下室を訪れた際の記述だ。

 原作でのエルミアーナは、学園にて散々に悪さをし、聖女を妨害したあと罰を受ける。


 婚約解消と学園からの退学、それから自宅での軟禁。


 正確にはそこでの反省具合を見て、社交界からの追放、国外退去、修道院送り、もしくは許しを与えるのか、それが決まるはずだった。


 だが原作のエルミアーナはどの道も辿らない。

 ではどうなるのか。

 その後の鍵を握るのが、今探している地下室だった。


 状況的に軟禁されていた王都の邸宅に、その地下室があると睨んでいたエルミアーナだが、そんなものの存在は「原作」を思い出すまで知らなかった。


「うーん…………」


 エルミアーナは壁をコンコン叩きながら、部屋の周辺を歩き回る。


「もしかして、部屋の中……。それとも、場所が違う……?」


 屋敷の廊下、ということ以上の情報がないため、こうして探しまわるしかない。

 それか、記述と違って回転扉ではないのか、だ。


「――……あっ」


 場所を変えるかと思いはじめたその時、明らかに音が軽いものに変わった。


 エルミアーナはごくりと生唾を飲み込んで、壁に手を付ける。そしてそっと力を込めた。


「っ、きゃあ!」


 カチッと音がしたかと思うと、急に抵抗がなくなって壁がくるりと縦に半回転する。


「あ、あぶなかった……」


 動いた回転扉の縁にしがみつき、どうにか転倒を免れたエルミアーナは、よろよろと立ち上がった。

 そして、改めて扉の向こうを観察する。


「……真っ暗ね」


 目を凝らしてみるが何も見えない。

 細い階段が下に続いているのが見えるだけだ。


「…………仕方ない、か」


 エルミアーナはぎゅっと拳を握りしめると、その階段に一歩足を降ろした。

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