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医療資源枯渇と少子化問題、その改善案 ~マイクロバイオータの知識から

 2022年度に入り、“国の借金”が話題になる事が多くなりました。今まで、それほど大きな問題を引き起こして来なかったとされる日本が抱える膨大な国の借金が、いよいよ日本経済に大きな重しとなって悪影響を与え始めたと言われているからです。

 ですから、財政負担をできる限り軽減する工夫が必要なのですが、財政負担の大きな要因の一つには医療があります。

 日本は高齢社会で、自ずから医療の為に資源が多く割かれますし、また医療技術の発展によって医療サービスの質も量も増えているからです。これまで治療できなかった病気が治療できるようになったり新たなより良い治療方法が生み出されれば、当然支出が多くなるのですね。だからこそ、延命治療の見直しや、予防中心医療へのシフトが訴えられているのです。

 ――ただし、

 詳しく説明すると長くなり過ぎてしまうので割愛しますが、これは本質的には“財源”の問題ではなく、“資源”の問題です。医療サービスを提供する為の労働力、施設、機器などが不足していくと予想されるのです。

 その典型例は産婦人科です。

 実は日本医療において、十年以上前から産婦人科医師の不足が問題視されています。そして現在でもそれは解決していません。日本は少子化問題が深刻ですので早急な解決が望まれているのにもかかわらず、です。

 更に、これは医療の範疇に留まりませんが、自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害などの発達障害、アレルギー疾患などが社会の発展と共に増加しました。当然ながらそれは社会負担を増やしますし、何より子供達は将来の日本を担い手ですから、健やかな成長は絶対に必要です。

 こういった問題は、何も日本だけに限った話ではありません。アメリカ、ヨーロッパなどの先進諸国、最近ではアジアなど社会が発展しつつある国々でも大きな問題となって来ています。

 何故、社会が発展するとこのような問題が発現するのかはまだはっきりと分かってはいませんが、その原因として疑われている一つに腸内微生物などのマイクロバイオータの欠乏が挙げられています。

 

 マイクロバイオータというのはある環境中の微生物の事ですが、人体のあらゆる場所には数多の微生物が生息していて、それが人間に様々な影響を与えていると分かっています。

 例えば、肥満です。

 アメリカ人の肥満率が高いのは有名な話で、150キロくらいはありそうな極端な肥満すらもそれほど珍しくありません(因みに、極端な肥満はとても苦しいらしく、ダイエットに成功した人に話を聞くと、「二度と肥満にはなりたくない」と応えるのだそうです)。

 肥満は大量に食べ、運動をしないという悪習慣の所為だと思う人が多いでしょうが、そればかりが原因ではないと主張している学者もいます。実は人間は、本来ならばそのような極端な肥満にはならないというのです(だからこそ、“肥満症”と言われているのでしょうか?)。エネルギーの吸収力が自然と抑えられたり、食欲がなくなったりして、肥満が抑えられるというのですね。

 では、どうして、そのような極端な肥満になってしまうのでしょうか?

 

 ――これについては、興味深い話があります。

 

 家畜を太らせる為に、アメリカでは抗生物質を投与する事があると言います。現在は太らせる目的での抗生物質の投与は禁止されているはずですが、治療目的と嘘を言って使っているケースもあるのではないか?と疑われています。

 抗生物質は体内の、特に腸内の微生物達を殺してしまいます。つまり、腸内微生物の組成の貧弱化が、動物の肥満に大きな影響を与えている可能性があるのですね。

 実際、肥満のマウスに痩せているマウスの腸内微生物を移植してみると、体重が激減したという実験結果があります。

 これが正しいとするのなら、家畜に投与した抗生物質が人間の口に入り、腸内微生物を殺してしまう事で、アメリカ人の肥満率が上がっている可能性も考えられるでしょう。

 脂っぽいものを食べ過ぎると、気分が悪くなりますが、それには微生物の代謝が関係していると言われています(参考文献:腸と脳 エムラン・メイヤー 紀伊國屋書店 108ページ)。

 実はこの他にも、人間のマイクロバイオータは前述した通り、喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、うつ病などの気分障害、発達障害などの様々な病気に関連していると言われています。

 アメリカはコロナ19の重症化率が高いですが、僕はこれも腸内微生物が関連しているのではないかと疑っています。肥満の人の重症化率が高いのはよく知られていますが、肥満が原因ではなく、腸内微生物の欠乏こそがその本当の原因なのではないのでしょうか? ネットで検索してみたら「コロナの重症化は腸内微生物が原因である事が分かった」といったような記事がヒットしました。こういう因果関係や相関関係は曖昧にしか分からないのが普通ですから、断定されると却って怪しいと思ってしまいますが、それでも“関係がある”と考えている人間がいる証拠にはなるでしょう。

 

 さて。

 腸内微生物などの人体のマイクロバイオータの欠乏が様々な健康被害を引き起こしているとして、何故、それは起こってしまったのでしょうか?

 一つには行き過ぎた“殺菌信仰”があるのかもしれません。

 「細菌などの微生物は人体にとって有害だから、殺さなくてはならない」

 人間社会にはそのような考えが今も根強く残っていて、テレビCMなどでも活用されていますが、環境中にいる微生物で人体に有害に働くのは極一部に過ぎません。多くは無害で、中には有益なものすらあります。

 近年はそれが見直され、昔ほど徹底して殺菌が行われなくなっています(例えば、病院によっては土足が認められたりしています)が、まだその影響があると考えるべきでしょう。

 次に疑わしいのは“調理”です。

 動物の繁殖にとって食物は欠かせません。ですが、食べる…… つまり、異物を体内に取り入れる行為にはリスクも伴います。もしかしたら毒物かもしれませんからね。ですから、自然界には意外と偏食の動物は多いのです。

 コアラがユーカリの葉しか食べないのは有名ですし、ウミウシも偏食の為に飼育がとても難しいのだそうです。

 ですが、“食の多様性”は動物が生き残る上でも重要です。当然ながら、多くの物を食べられる方が飢える可能性が減ります。そして人間の場合、その“食の多様性”を広げているのは調理だとも言われています。

 調理すると、食べ物が美味しく感じられるようになりますが、それは“人間にとって吸収し易くなる”からだと考えられます。そして調理技術の進歩と共に、食べ物はどんどん人間にとって美味しくなりました。つまり、吸収し易くなりました。が、それは飽くまで“人間にとって”です。人間の体内には“人間以外の生物”も存在しているのです。

 まぁ、つまりは調理の過程で、食物から“人体に棲むマイクロバイオータの餌”が取り除かれてしまっているのですね。

 マイクロバイオータは生物です。餌が少なくなってしまえば、数が少なくなってしまうのは自明でしょう。

 また、マイクロバイオータ自体を補給する発酵食品も重要です。

 (因みに僕は、長い間、アレルギー性鼻炎に苦しんでいたのですが、発酵食品である黒ニンニクを食べるようになって随分と改善しました)

 最後に、出産における経腟分娩(産道を通って行われる分娩)と母乳育児の減少を挙げておきます。

 人体にとって、赤ん坊の時期はその後の生育に大きな影響を与える重要な期間であるのは知っていると思いますが、それはどうもマイクロバイオータにとっても同じであるらしいのです(因みに、腸内微生物が整う前にハチミツを赤ん坊に与えてしまうと、最悪、乳児ボツリヌス症に罹って死ぬ可能性すらあるので気を付けてください)。

 そして、膣を通らない帝王切開による出産では、母親のマイクロバイオータを赤ん坊が摂取できず、赤ん坊のマイクロバイオータが貧弱化してしまうのだそうです。

 また、母乳には驚くべき事に腸内微生物が含まれているそうです。血管を通して、母体は腸内微生物を乳房にまで運び、赤ん坊に母乳と一緒に摂取させているのですね。

 原始的な哺乳類のコアラは、赤ん坊に糞を与えて腸内微生物を摂取させていますが、人間にまでなると母乳に混ぜているのです(生命の進化には、ただただ驚愕させられますね)。

 母乳には腸内微生物のみならず、腸内微生物の餌も含まれています。母乳を赤ん坊に与えることは、ですから赤ん坊の腸内微生物が健やかに育つのに役立ちます。

 (以上、人体のマイクロバイオータに関する内容は、『あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン 河出書房新社』、『腸科学 ジャスティン・ソネンバーグ、エリカ・ソネンバーグ 早川書房』、『腸と脳 エムラン・メイヤー 紀伊國屋書店』の三冊を主に参考にしました)

 

 マイクロバイオータの欠乏対策として、“過度な殺菌の見直し”、“食の改善”は個人でも対応が可能です。ですが、“出産時のマイクロバイオータの摂取”は、社会全体の病院体制から見直さなくてはいけないでしょう。

 帝王切開ではなく、赤ん坊が産道を通る経腟分娩を増やす為には果たしてどうすれば良いのでしょうか? 冒頭で述べましたが、日本の医療資源は限られていて、その中でも特に産婦人科医師は不足しています。

 実は僕に1案あります。

 『大往生したけりゃ医療とかかわるな 中村 仁一 幻冬舎新書』という新書の81ページ辺りで紹介されてあったのですが、実は人間にとって自然な分娩のスタイルというのは、本来は“座位分娩”であるというのです。

 普通、出産は仰向けのスタイルで行いますが、座位分娩とは座位…… つまり、しゃがんだ姿勢、ちょっと下品な表現になりますが、大便をしている時のような姿勢での分娩を言います。

 こうすると出産に重力の力を借りられますし、子宮口が開き、力み易くなるので、出産は容易になり、母子ともに負担が軽くなるのだそうです。

 ちょっと下品な話になりますが、仰向けの姿勢で大便をすることを想像してみてください。物凄く辛そうでしょう? 大便をする場合、座位の方が楽なのは当たり前にイメージできます。

 それと同じで、分娩も座位の方が楽になるのです。

 古き日本では産屋で出産が行われていましたが、この産屋には力綱と呼ばれるロープが天井から垂らされていました。妊婦はこの力綱を掴んで、座位分娩で出産を行っていたのだそうです。

 先の書籍には、自然崇拝的な一面があり、正直に言うと、“偏っているな”という印象を僕は持ちました。が、それでも僕はこの話には納得をしました。何故なら、僕がずっと抱いていた疑問がこの説明で解けたからです。

 時折、ニュース番組で、トイレで出産をしてしまった未成年の女性の話が報道される事があり、しかも母子ともに健康であったりします(子供が捨てられてしまっていたりもしますが)。

 そういったニュースを聞く度に、

 「出産は大変なはずなのに、どうしてたった一人でできるのだろう?」

 と、僕が首を捻っていたのですが、“座位分娩なら出産は大きな負担にならない”という主張が本当であるのなら合点がいきます。トイレでは、言うまでもなく、座位ですからね。

 

 調べてみると、座位分娩の設備がある病院もあるみたいですが、まだまだ日本では、仰向けでの分娩が普通です。ですが、座位分娩を基本とした方が、資源の節約の観点からも、母子への負担の観点からも、より優れている可能性があるのです。

 そうして、経腟分娩が増えれば、帝王切開の減少に繋がり、赤ん坊のマイクロバイオータ欠乏を防止できます。

 つまり、財政負担の軽減と、日本人の健康の改善効果が見込めるのです。

 或いは、初期には多少の研究費や、設備への投資が必要になるかもしれませんが、長期間を視野に入れるのなら、座位分娩への転換を行った方がより好ましいかもしれません。

 

 ――座位分娩の普及を、日本で考えてみるべきではないでしょうか?

 

 また、もしあなたが妊婦か、その関係者であったのなら、座位分娩を検討してみることをお勧めします。

 (検索すれば、座位分娩について簡単に調べられますので、一度読んでみてください)

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