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天使と悪魔

作者: Yanagi

 天界歴3020××年。

 

 「君、なんでこんな所に居るの?ここは天使の領域だから、悪魔は入っちゃダメなのに」

 

 「…飛ぶ練習してたら、落ちちゃった」

 

 天使の森で、とある天使と悪魔が出会ってしまった。

 

 「僕はアル。君は?」

 

 「…ベリー」

 

____________


 出会って初日。

 

 小さな湖のほとりで、小さな天使と小さな悪魔が、湖にその小さな足を入れて涼んでいた。


 「なんで悪魔と天使は仲が悪いのかな。僕達は仲良しなのに」

 

 「…お母さんは、天使は善人面をして気持ち悪いから近づくなって言ってた」

 

 「君も、そう思う?」

 

 「そういう人もいるんだろうけど、アルは違う」

 

 どうやら天使の少年は、アルという名前らしい。

 

 少女の言葉に、アルは綺麗な顔で笑った。


 「僕もね、ベリーは他の悪魔と違う気がするんだ。きっと、君は綺麗な心を持ってるんだね」

 

 「でも私、悪魔だよ?」

 

 小さな悪魔_ベリーは、小首を傾げる。

 

 「関係ないよ。僕は君が好きだもん」


 「天使なのに悪魔のこと好きになるの?」

 

 「おかしい?」

 

 今度は、アルが傾げた。

 

 「…分かんない」

 

 常識として、悪魔と天使は仲が悪いと教えられる。けど、アルはベリーのことが好きだし、ベリーも嫌いにはなれそうになかった。

 

 幼い頭ではよく理解できず、ベリーは考えるのを止めた。

  

 「…暗くなってきたね」

 

 「私、帰る。暗い中なら天使にも見つからないし」

 

 「じゃあ、またここに来て!もっとベリーと話したいんだ!」

 

 「…私も、アルと話したい。明日また来るね」

 

 「この湖で待ってるよ」

 

 アルはコクンと頷いて、薄暗い空へ飛び立った。

 

 暗闇に姿を消す少女の姿を、アルはずっと見送った。

 

 

 

 

 

 

 それから2人は、湖で話すようになった。

 

 アルもベリーも、お互い以外に友達は作らなかった。

 

 友達を作って、湖に行かなくなり、疎遠になるのを恐れたのだ。

 

 今日も2人は湖のほとりで並んで座り、水面を見ながらたった1人の友の話を聞いていた。

 

 「実は僕、四大天使の1人、ミカエルの息子なんだ」

 

 「そうなんだ。だからそんなに神のオーラが強いんだね。天使は作られた順によって、神のオーラが濃くなるって本に書いてあった」

 

 「ベリー、その年でオーラが見えるの?まだ7歳なのに」

 

 「開眼が早かったの」

 

 悪魔は12歳ぐらいになると、"開眼"という成長が起こる。

 

 天使や悪魔のオーラが見えるようになり、オーラが濃い人ほど神、または魔王に近いとされる。

 それと同時に、強さもオーラの濃さで判別される。

 

 天使は生まれつき開眼しているが、悪魔の子供はその歳まで開眼しないので、開眼してからやっと自衛が可能になる。

 

 「ミカエルに私と会ってることバレたら大変だよ」

 

 「バレないよ。父さん、僕にあんまり興味ないから」

 

 「…寂しくないの?」

 

 「前までは寂しかったけど、今はベリーがいるから」

 

 アルはベリーの顔を見つめて、ニッコリと笑う。

 

 ベリーは恥ずかしくなって「そっか」とだけ答えて、赤くなった顔を隠すように俯いた。

 

 

 

 


 

 いつもなら自分が来る前に待っているはずのアルがいなかったベリーは、珍しいと思いながら、湖のほとりに座って待っていた。


 暫くして、背後からアルの気配を感じ、振り返る。

 

 アルの顔を見た瞬間、頭が真っ白になった。

 

 「待たせてごめんね、ベリー」

 

 「っアル!その顔…」

 

 アルの頬は赤く腫れ、愛らしい顔は腫れによって、少し歪になっていた。

 

 「お父さんに、ベリーと会ってることがバレちゃって。お父さんじゃなきゃバレないような、ほんの少しの瘴気に気づかれたらしい」

 

 アルは眉尻を下げて、心配かけてごめんね、とベリーの頭を撫でた。

 

 対してベリーは悲しそうに眉間に眉を寄せて、アルの顔を見つめる。

 

 

 天使はオーラ、悪魔はオーラと"瘴気"を常に纏っている。

 

 オーラは体から離れることは無いが、瘴気は霧のようなもので、微量だが相手に付着する場合がある。

 

 "瘴気"と呼ばれるだけあって、大量に天使の体が触れ続けると、天使のオーラが汚れ、体や脳に異常が起こる。

 

 防衛本能として、オーラが強い天使ほど、瘴気に敏感なのだ。

 

 「とにかく冷やさなきゃ」

 

 ベリーは自分のズボンの裾を魔力で切断し、湖で濡らしてアルの頬に当てた。

 

 「それで、ミカエルは、私をどうしろって?」

 

 「………殺せって」

 

 「そう」

 

 ベリーは大して驚きもせず、濡れた布をアルに持たせた。


 そしてもう片方のズボンの裾も切断し、そのまま鋭利な魔力を自分の腕に向けた。

 

 「ベリー?何する気!?」

 

 「これしかないでしょ」

 

 魔力はベリーの腕を切りつけ、腕からは大量の血が流れる。


 血は布を赤黒く染めた。

 

 「その布を握りしめて家に帰るの。少なくとも、アルが私を傷付けた証拠にはなるはず。悪魔の血には、瘴気が沢山含まれてるから」

 

 「……なんでそんな簡単に、自分を傷つけるの?」

  

 「アルの為なら、痛くないの」

 

 「僕の心が、痛いよ」

 

 「ごめんね。でも、これでもっと、アルと居られる」

 

 ベリーは幸せそうに微笑んで、血濡れの布を、アルに握らせた。

 

 アルは涙目になりながら、「血、止めなきゃ」とベリーの腕に神力を掛ける。傷はどんどん塞がり、何事も無かったかのように治った。

 

 「凄いね、アル」

 

 「もう二度と、こんなことしないで」

 

 そう言ったアルの顔が存外真剣で、気圧されるような形でベリーは頷いた。

 


 

 

 

 「ベリー!!」

 

 あれから数週間が経ち、無事にミカエルを騙した2人。

 

 齢7歳の2人は、四大天使ミカエルを騙すことの重大さというものを理解してはいなかった。

 

 お互いが居ればそれでいい。そう考えるようになったのは、いつからだったのか。

 

 「どうしたの?アル」

 

 小さな箱を手に持って走り寄るアルに、ベリーはアルと箱を交互に見ながら聞いた。  

 

 「背中、見せて!」

 

 「いいけど…」

 

 上を脱ぎ、黒い翼の生えた背中をアルに晒す。

 

 アルは箱を開けて、中に入っていたインクのような液体に、人差し指を突っ込んだ。

 

 その指を、ベリーの背中の真ん中にそっと置き、呪文を唱え始める。

 

 ベリーは警戒しておらず、ただアルに身を任せていた。

 

 アルは自分に危害を与えないと心から理解しているのだ。

 

 「結婚の神ユーノー、悪魔ベリーと天使アルに、一生の結びを」

 

 唱え終わると、ベリーの背中にはユリの花の印が刻まれた。

 

 "一生の結び"。それは、二度と解かれることのない、固い結び。

 

 結ばれた者は、死ぬも生きるも共にすることとなる。

 

 「これって、神の力を利用してるから禁術だよね」

 

 「そうだよ。でも、こうしておけば、僕たちはずっと一緒だよ!」

 

 「なら、いっか」

 

 こうして、2人の背中にはユリの花が刻まれ、二度と解かれることのない縁が結ばれた。

 

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