89、心のささくれ、酒屋のバイトにて~エッセイ~
心のささくれ
あれは学生の頃でしたね、夏休みに酒屋のバイトにいそしみました。
稼いだお金で、メガドライブのメガCDを購入したのは、ちょっと微妙な思い出です。
うだるような真夏に、私はせっせと働いておりました。
そんなある日のこと、お店の自販機に、缶ジュースを補充していた時です。
道端で老夫婦が喧嘩をしております。
少し離れた場所で補充している私の方へ2人は歩いてきます。
(あ~やだな)
正直、私はそう思いました。
「やめて、やめて」
と、おばあさんは言います。
「この、この!」
と、おじいさんは、持っていた杖でおばあさんを叩こうとします。
(うわ~)
はじめて修羅場ってヤツを目にしました。
私はドン引きです。
おばあさんが、助けを求めてこっちにやって来ます。
「やめて、やめてって!」
「この!この!」
私は缶を補充する手を止めました。
「あの~やめましょう」
私はソフトな宥める口調で言います。
「やめてよ!やめて」
おばあさんは、私の背に回り込みます。
「お前は、このっ!」
おじいさんは逃すまいと、私という障害物を避け叩こうとします。
でもね、殴打というか脅しみたいで、あまり叩いてはないように感じました。
にしても、埒があきません。
ここは若者と年寄りの力の差を活かし、私はおじいさんの背中に回り込むと、はがいじめにします。
「落ち着きましょう」
「助けて~」
「お前、このっ!」
「・・・・・・」
「助けて~!」
「この、この!」
おじいさんは、ジタバタします。
「いい加減にしろ!」
私が叫ぶと、店主が飛びだしてきます。
それにバツの悪さを感じた老夫婦は、急に冷静になったのか、すごすごとこの場
を立ち去りました。
「あの~」
と、店主にことの次第を話そうとすると、
「なんで、携わったの?」
思いもかけぬ言葉に私は、
「すいません」
と、言葉を返しました。
なんだか、大人の事情ってものを感じ、もやりと心の中がしました。
心のささくれまたひとつ。
またひとつ。