82、インセクターゼロ~ホラー~
昆虫採集セット。
あれは50年も前のことか。
昆虫採集セットを親から買ってもらった私は、嬉々として昆虫を捕った。
カブトムシ、クワガタ、タマムシ、カマキリ、殿様バッタ、アゲハ蝶、オニヤンマ・・・。
ショッキングピンクの薬剤液を注射器に充填し、虫たちを押さえつける。
子ども心に、なんだかいけないことをしているような気持ちになるが、次々と自分が捕獲した虫たちが、コレクションとなる・・・ちょっとした優越感が嬉しかった。
標本もどんどんと増えていく。
虫たちの重複が増え、私は虫の身体の構造に興味が湧いた。
採集セットにはメスが入っていて、虫たちを斬り刻んだ。
己には勉強の為と言い聞かせて・・・本当はどうだったんだろう。
うだるような夏の日。
私は大量の虫たちを捕獲した。
もはや慣れた手つきで、虫たちを注射器で刺した。
回る扇風機のタイマーが切れたのか、ゆっくりと止まった。
あつい・・・。
それから記憶がない、おそらく私は眠ってしまったのだろう。
はっ!
気づくと、私は羽交い締めされていた。
カサ、カサという羽音、ゴソゴソという独特な節足動物の動く音が耳元でやかましく響く。
私は音のなる方を向いた。
無機質な目が見ている。
虫たちだ・・・何も言わず・・・だだじっと私を見ていた・・・いつまでも、いつまでも・・・。
目が覚めた私は、その日のうちに昆虫採集セットを処分して、ついさっきまで大事だった標本のすべてを友人にあげた。
私はこの日から虫が苦手になって、触ることもできなくなった。
消えた昭和の玩具。