№72 奥さんと柳川に行く 前編 ~エッセイ・グルメ風~
うなぎおいすぃよ。
五月の下旬、私と奥さんは柳川に行きました。
職場がある柳川に、私が結構頻繁に奥さんを誘うので、彼女は食傷気味でした。
だけど、
「うなぎ奢るから」
「じゃ行く」
という見事な交渉条件を持ちだし、この難交渉を成立させました。
半ドンの奥さんが仕事を終えてから、柳川へ出発します。
観光地沖端近くのかんぽの宿横、足湯の駐車場に車を停めて、うなぎ屋さんまで歩きます。
堀を臨む遊歩道を歩きながら、御花邸の近くにあるうなぎ屋さんに入ります。
平日ともあってお店は、はじめ私達だけでした。
並せいろ(うなぎ3切入り)を二つ頼み、私は窓辺を眺めます。
眼前には川下りのルートでもあるお堀に御花邸が見えます。
「ここいいじゃん」
奥さんが言います。
「でしょ」
私は自慢気に頷きます。
「そろそろ、うちの会社の舟が通るかも」
「やだ恥ずかしい」
「いいじゃん、うなぎと川下りのお客さん同士、手を振るんだよ」
「それは・・・ちょっと」
「まあ、気持ち分かる」
「でしょ」
「でも、俺は手を振る」
「・・・ご自由に」
ほどなくして、せいろ蒸しが運ばれてきました。
肝吸いとおしんこがついてきます。
まずは、ずずっと吸い物を飲みます。
「うん」
「美味しい!」
奥さんも喜んでくれたようです。
「では、せいろも」
湯だつせいろに、甘辛い醤油ダレ蒸しご飯の上には、錦糸卵のクッションそして、鎮座するウナギのかば焼き3ちゅ。
ぱくり。
ほのかに薄味のしつこくないタレご飯に、濃厚なウナギのかば焼きが絶妙に合います。
「食べやすいね」
「うん、ちょうどいい・・・って、久しぶりのウナギだから他(味)分らんけど」
「確かに」
私たちはそう言い合うと、自然に黙食タイムへと移りました。
ぱくぱく・・・んっ!
ふと窓から見えたのは、うちの会社の舟です。
先輩船頭がお客様を乗せて舟を漕いでいます。
「来たっ!」
「えっ!」
「おおーい」
私は手を振ります。奥さんは肩をひそめます。
お舟のお客様も手を振ってくれ、先輩船頭は二度見します。
「バレたんじゃない」
「大丈夫。俺、帽子かぶってるし」
「いやいや、休みの日まで柳川に来て、こいつ絶対暇人と思われとるよ」
「・・・んなことないもん」
奥さんは食べ終わると、ことりと箸をおろします。
「ごちそう様でした」
「へっ」
と、さも初聞きのような顔を見せる私。
「おごりでしょ」
「違うよ・・・なーんて」
私たちは美味しくうなぎを食べ終えました。
私は会計レシートを持ち立ちあがります。
レジ前でうなぎの骨せんぺいをおみやげに買って、お店を出ました。
滅多に食べれまへんがな~。
エッセイ風でもない(笑)。