№56 元鎮魂イタコ伊武綾子のおせっかい~ローファンタジー~
伊武ばあちゃんの活躍。
ここはある中学校の図書館じゃ。
気になることがあるんじゃな。
私はついこないだ餅を喉に詰まらせて、ぽっくり逝ってしまった。
まあ、88歳も生きたから本望ぢゃ、本望ぢゃが。
生きてた頃は、イタコを生業に死者を慰めたりしておったが、死んでしまったので、こっちの人となってしまった。
あの世に行くのは、まだ早かろうと、現世をちょっくら彷徨っている。
まあ、飽きたらそのうち成仏するじゃろうて。
ほれ、あそこの席ででよだれを垂らして寝とるのが、中学二年生の加野大地君じゃな。
この子は孫の教え子、孫は彼の家庭教師での・・・意外とは失礼か・・・頭がよくて優しい自慢の孫じゃ。
この前、図書館の付喪神と知り合いになって、ここを訪れるようになったんじゃが・・・大地君はのう・・・そう、マセガキじゃ。ここの図書員の井村渚ちゃんにホの字なんじゃ。
可愛い孫の教え子・・・ここは私が人肌脱がねばなるまいて。
「ん~」
おっ大地君が起きおったぞ。渚ちゃんはカウンターにおるの。
付喪神のみなさんよろしく~。
彼がカウンターを通る・・・今じゃ。
「お疲れ~」
と大地君が手をあげた瞬間、近くにある、示し合わせた古い本棚が倒れる。
「わわわっ!」
彼がカウンター側に避ける。
渚ちゃんが作っていた返却シートが、ふいに舞いあがる。
「あっ」
彼女が手を伸ばす。
「喝っ!」
私が微調整。ナイス角度じゃ。
大地君と渚ちゃんのお互いの顔が急接近じゃ。
「あ」
「ああ」
「じゃ」
「また」
顔を赤らめて、そそくさと帰る大地君。
なんじゃ、まだケツが青いのう。
どれどれ、ここはまだまだ教育的指導が必要かのう。
もうしばらく現世徘徊するかの。
企画作品の前日譚的な。