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№51 天下人の妻~歴史~
天下人秀吉公。
床をどすどすと鳴らし、秀吉は襖を勢いよく開いた。
「ねね、帰ったぞ」
それまで裁縫をしていたねねは、針持つ手を止め、にっこりと微笑む。
「お帰りなさいませ」
「うむ」
久し方ぶりの妻の笑顔に、夫の鼻の下がつい伸びる。
破顔一笑。
「ねねは、いつも可愛いのう」
秀吉はねねを抱きしめると頬擦りをする。
「これ、針が・・・危ないですよ」
ねねは子どもに諭すような口調で夫に言った。
「かまわん、かまわん、だぎゃあ、お主を目の前にして、針なぞこの秀吉恐れんぞ」
「左様ですか」
ねねは、針山に持っていた針を刺すと、すっと立ち上がった。
中腰で抱きついていた秀吉は後ろに転ぶ。
「ねね?」
「あなた正座」
冷たい声が響く。
「はい」
そそくさと亭主は正座をする。
「浮気ですね」
断言する。
「はい」
バツが悪い顔を見せる秀吉に、ねねは溜息を一つつくと人差し指で夫の額をついた。
「わるいひと」
その妻、ねね様。